「遺伝子組み換え育種」は作物とヒトとの関係をどう変えるか(後篇)

前篇では,遺伝子組み換え育種とは何か,ということについてご説明しました.後篇では引き続き,十勝農業試験場にて育種の現場を目にするところから話を起こしてゆきたいと思います.

 

勝農業試験場の育種家の方は,突然の来訪にもかかわらず快く案内を引き受けて下さいました.ちょうど季節柄,試験場の畑ではまさに交配や選抜など,育種が行われていました.

 

「十勝長葉?ああ,よく知っているね.そこにあるよ.古い品種でね,もう名前を知る人すら少ないけれど,今でも毎年必ず圃場の片隅に植えてあるんだ.」

 

「育種家ひとりひとり,理想や感性がある.だから,チームで育種をしていても,数多くの子供たち(ダイズ系統)の中から誰を選ぶかをめぐって,しばしば衝突が起こるよ.」

 

「…ええ,もちろん基本的には君たちが大学で習うように,育種目標に照らしてデータに基づいて選抜をするわけだが,実際はそれだけで品種が生まれるわけじゃない.」

 

「そう,選ばれるのは10年以上かけて選抜を繰り返しても,数百万個体に1個体ほど.それも優秀といわれる品種が生まれるのは数年から数十年に1品種に過ぎない.もちろん,選ばれなかった個体は全て捨てられてしまうんだ.」

 

「育種家は,自分が見出した系統[1]を,まるで我が子らのごとく,守ろうと,選ばれるようにと頑張る.それは,贔屓としてデータを曇らせることになりうるため危険だ.だけど一方でその目こそが,数々の優れた品種を生み出してきたのもまた事実だ.」

 

「…ほら,着いた.ここにある系統は私が”贔屓”している系統だ.(苦笑) なかなか奇抜な姿をしているだろう.」

 

敵な時間を過ごした後,大豆育種チームの長と,案内して下さった育種家の方に思い切って聞いてみました.

「育種とは,人間が描き,デザイン・設計した理想の作物像に,作物を近づけていくものでしょうか.それとも,育種現場に姿を現した多様な系統の中から,比較的目標に近いと思われる系統を選んでゆくものでしょうか.」

 

「それは,育種家同士でも論争になるよ.今の現実としては主に後者だね.もちろん,前者の側面もある.理想はあくまで,育種家ごとに心に思い描くものだ.」

 

種家は,ヒトを代表して,ヒトのパートナーである植物と対話を続けています.

理性と感性,理想像と観察眼の両方が備わった育種家が,我々の命を支える品種を見出してきました.

では,遺伝子組み換え育種の導入により,このような育種の現場はどのように変わったのでしょうか.

十勝農試の方々が教えてくださったこと,それは,育種とは「総合力」であるということです.

品種は,育種家の手を離れて様々な畑に旅立ってゆきます.行く先々の多様な厳しい環境で,農家さんの厳しい目に認められるためにクリアすべき条件は多岐に渡ります.

たとえ,1つの性質のみを改良しようとして始めた育種でも,それにより生み出された品種が誕生し,栽培が広まるためには,改良した点を引き立たせる多様な条件が求められます.そのため,育種家は栽培現場に精通し,同時に確かな観察眼と冴え渡った想像力が求められます.

えば,害虫に対してだけ効く毒を生み出す遺伝子を組み込んだトウモロコシを遺伝子組み換え育種法により開発しようとしても,それが収量や品質に結びつかなければ品種として認められることはありません.

そして,認められる品種を見出すには血の通った育種家が,先述のように,植物と対話に近いやりとりをすることが避けては通れないのです.

このように,育種とは,ヒトと植物の関係が織り成すものです

決して,ヒトが植物を思い通りコントロールするような図ではないのです.

それは,次世代ゲノム育種の進展がどれほど見られようと,変わらないものでしょう.

 

「遺伝子組み換え」と聞いて好意的に受け取る方も,そうでない方もおられると思います.

いずれの方にも,このことを知っていただきたいと思い,筆を執った次第でした.

ご一読頂きありがとうございました.

[1] 系統・・・ある個体の子供や,孫,ひ孫…のように,血のつながった個体の集まりをいう.親の性質を受け継いでいる.

 

友部遼

友部遼【農業,テクノロジー】

投稿者の過去記事

農業や農学の将来に関して,多少学問をしてきました.
次世代の食料生産・水資源利用に関して,主に研究開発の視点から皆様と議論をさせていただければと思います.
よろしくお願い致します.

ピックアップ記事

  1.  大学の新学期2017年度がはじまり一月ほどが経った。 新入の学部生、まず、おめでとうございます…
  2. 出町柳駅すぐのバス停で、バスに乗り、ゆられること30分。そこには都会の喧騒から離れた、自然が豊か…
  3. 4月、出会いの季節。今年も多くの新入生が、大きな期待を胸に大学へ入学した。&nbsp…
PAGE TOP