【食べるひと、つくるひと】「世界中の人たちが、 メロンパンを食べている姿が頭に浮かんだ」メロンパニスト平井 萌さん【前編】

人はなぜ、食べるのか。
そしてなぜ、食べるものをつくるのか……。

あまりに単純で、あらためて問うことすらためらうこの疑問。
でもじつは、その答えはそれほど単純ではないのかもしれません。

たとえば、修道士が祈りとともにパンを口にすることと、
ビジネスマンが仕事に向かう道すがら、コンビニで買ったパンをほおばること。

たとえば、部活で帰りが遅い息子のために、お母さんがシチューをつくることと、
内戦が続く国で、料理番が疲弊した兵士のためにシチューをつくること。

おなじ食べ物でも、食べること、そしてつくることの背景にある
”想い”や”ものがたり”は、
きっと違っているのではないでしょうか。

特集「食べるひと、つくるひと」では、
食をテーマに活動する人に焦点を当てて、
その人が、食にこだわる背景にある”想い”や”ものがたり”に迫ります。

人はなぜ、食べるのか。
そしてなぜ、食べるものをつくるのか……。

きっと他の誰とも異なる、
わたしたちの、そしてみなさん自身の答えを探す旅に、
少しのあいだ、お付き合いください。

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第一回でお話を聞くのは、

「“大好きなもの×何とかしたいこと”で社会を変える」をテーマに、メロンパンを通してコンゴを支援する、
“メロンパニスト・ひらめ”こと平井 萌(ひらい・めぐみ)さんです。

コンゴ民主共和国は、世界最悪の紛争地と呼ばれる国。

スマートフォンをはじめとする電化製品を作るのに欠かせないレアメタル「コルタン」の採掘を巡って、
コンゴ国内では今も紛争が続いており、第二次世界大戦以降最も多い約540万人の犠牲者を出しています。
この事実は、先進国側にとって“不都合な真実”なので、長年隠されてきました。

「スマートフォンを使うわたしも加害者のひとりかもしれない」
そう考えたひらめさんは、コンゴの現状を伝える団体を設立。
どうしたらコンゴに関心がないひとびとにこの問題を知ってもらうことができるのか、
考えた末に出たアイデアが、自身が大好きなメロンパンを通じてコンゴの現状を知ってもらう、というものでした。

ひらめさんが開催する「メロンパンフェス」では、コンゴのことを身近に感じてもらうために、
メロンパンを販売するとともにコンゴの歴史や現状をまとめた展示物を並べたり、
有識者のトークやコンゴ人のミュージシャンのライブなどを行っています。

先日、5月5日に開催された「メロンパンフェスティバル2015」は
来場者700人を超え、2,500個ものメロンパンを売り上げる大盛況でした。

そんなひらめさんが、メロンパンに込める思いとは?
活動での経験やメロンパンとの出会いとともに、あらためて聞いてみました。

 

“メロンパニスト”じゃなく“ハンペニスト”だったかも

――ひらめさんが以前インタビュー記事のなかで
「おでん界のメロンパンはハンペンだ!」
「お寿司界のメロンパンはかんぴょう巻きだ!」
と言っていたのをすごく覚えています(笑)

ひらめ:そうなんです。和食の方が好きなんです(笑)

――甘い物は洋風のものが好きとか?

ひらめ:そうですね。
でもそんなにこだわりはなくて。
和菓子も好きですし、あんこも好きですし…甘党ですね。

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――メロンパンとの出会いは高校3年生の時だったとのことですが、
それだけ甘いものが好きだったにもかかわらず、その時が初めてだったんですね。

ひらめ:それまでにメロンパンを食べた記憶が全くなくて。
こういうことは家で出てくる食事に影響されると思うんですが、母があまり菓子パンを買わなかったんです。

――なんだか意外です。

ひらめ:メロンパンの存在は知っていたんですが、自分の中の「食べ物リスト」に入っていなかったんです。
たまたま高3の時に、友達から購買で、毎週水曜日だけ「チョコチップメロンパン」が売っていて。
それがしかも美味しいって言われて。

でも見た目もなんかカサカサしているしおいしそうじゃない。
今なら見ただけで「うわ~」ってなるんですけど、その時はそんなに魅力的に感じなくて…。
それで半信半疑で食べてみたら、「なんだこれは…!」って。

――「おいしい…!」と。

ひらめ:パンに2層の食感がある、っていうことがまず衝撃的で。
甘くておいしくて…びっくりしました。

――その出会いの後、どんなときにメロンパンを食べていたんですか?

ひらめ:高校生の時は、お昼は母が作ってくれたお弁当で、
朝も夜もだいたい家で食べていたので、メロンパンを食べる機会がなかったんですよね。

衝撃は受けたんですけど、そのあと食べたのは何回かくらいで。
高校卒業後は一年浪人したんですけど、その時はハンペンブームだったんです。

――ハンペニストだったと(笑)

ひらめ:ええ(笑)
その間はメロンパンのことは忘れていて、全く食べなかったんですよ。
それで大学に入って、「お昼つくるのめんどくさい」ってなった時に、
近所のサンクスに行ってメロンパンを食べたら、ものすごーくおいしくって。

「この今まで見向きもしなかったけど、この100円のメロンパンがなんておいしいんだ…!」と(笑)
それからのお昼は、週5で毎日メロンパンでした。
そうしてやっと、今くらいメロンパンを食べるようになったんです。

――なるほど。メロンパンとは2度の“出会い”があったんですね。
そこからメロンパンがライフワークになって、今の「コンゴとメロンパン」になったと。
もしかすると「コンゴとハンペン」だったかもしれない?(笑)

ひらめ:そうですね。
「ハンペン」か「かんぴょう巻き」のどちらかだったかも(笑)

 

理想のメロンパンづくりに終わりなはい

――今年のはじめには大阪の渦潮ベーカリーさんに
レシピを教えていただいたり、都内のボンジュール・ボンさんのパン制作工程に参加したそうですね。
その体験のなかで感じたことはありますか?

ひらめ:以前クラウドファンディングを実施したときにご協力いただいたことがあったんですが、
お返しが何も用意できなくて。
自分で作ったメロンパンをお渡ししよう、ということで作り始めたんです。

必要にかられてやったって感じだったんですが…
これが全然おいしくなくて!(笑)

――ええ(笑)

ひらめ:何が駄目なのかわからないけど驚く程おいしくなくて、それでパン屋さんで修行したほうがいいなと。

パン屋さんにメロンパン作りについて伺うと
「メロンパンはパンのなかでも作るのが難しい」
って仰るんですね。それを実感しました。

――どんなところに難しさがあるのですか?

他のパンと違って、
普通のパン生地とクッキー生地を別につくる手間があるし、
さらにそれぞれ発酵の有無があるから焼くタイミングが難しかったり…。
自分で作ってみて感じていた以上に、パン屋さんにとっても難しいことで。

“理想のメロンパン”を作るのは未だに試行錯誤だ、と渦潮ベーカリーさんも仰っていました。

あと、先日のメロンパンフェスで、ラスク作り体験の講師の方が仰っていたのは、
「メロンパンは終わりがない、終わりが見えないパン」だっていうこと。

――そのこころは?

ひらめ:他のパンはある程度「これだ」っていう完成形が見えているけれど、
メロンパンは永遠に試行錯誤していて「これでいいんだろうか」と、ずっと見えない。
その時その時によっても出来具合が違ったりもするもので…

――確かに、ドイツパンやフランスパンみたいに、風土によって自然に形作られた、
というような歴史があるわけではないですよね。
たしか、メロンパンの発祥の正確なところはわかっていないと聞きます。
ルーツがあいまいだからこそ、パン屋さんが自分たちの好きなように
どんどん作っていった結果が今…っていうことなんですね。

ひらめ:そこが魅力でもあると、勝手に思っています。

 

実はお店開くのをやめるんです。

――ひらめさんは今後の活動で、今年スウェーデンにメロンパン専門店をオープンさせることを目標にしていましたが、
ご自身でパンを作ることはこだわりたい?

ひらめ:実はお店開くのをやめるんです。
ただ、どういうふうに作るかはわかっていた方が良いと。

――そうなんですか!それはいったいなぜ?

ひらめ:元々お店を作るとなったときにも、パン作りは海外の現地のパン職人さんにお願いする、
ということだったんですけど、いきなり日本のわけのわからない若者が
「メロンパンていうパンがあるんで、お店やってくれませんか?」
って言ってもちょっと難しいと思いまして。

――なるほど。それでは、今後はどのような活動を?

ひらめ:既存のパン屋さんに、
「日本の伝統的なお菓子で、本当に美味しいので作っていただけませんか?」
とお願いしてお店においてもらい、
その売り上げの一部をコンゴに寄付できるような、
“チャリティーメロンパン”みたいな販売方法をやっていければと考えていて。
まずは勝手にメロンパンを普及させていこうかと思っています。

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「おいしい」は大切な人に

――ところで、自分の携ったメロンパンは、
どんな人に、どんな時に食べてもらいたいですか?

ひらめ:私の好きな作家さんで、瀬尾まいこさんが書かれた“卵の緒”という小説のなかに、
お母さんが小学生の息子へ向けて言った言葉があるんです。

「すごーくおいしいものを食べた時に、
人間は二つのことが頭に浮かぶようにできているの。

一つは、ああ、なんておいしいの。生きててよかった。
もう一つは、ああ、なんておいしいの。
あの人にも食べさせたい。

で、ここで食べさせたいと思うあの人こそ、
今自分が一番好きな人なのよ」(※)

私がメロンパンを食べていてコンゴの事を考えた時に、
世界中の人たちが、メロンパンを食べている姿が頭に浮かんだんですね。

それは具体的に誰というわけではなかったんですが、
そんなふうに、例えばフランスのパン屋さんで初めてメロンパンを買って食べた人が、
「は!これはあの人に食べさせてあげたい」
と大切な人を思い浮かべて、次はその人の為に買う。
そんなふうに、「誰かに送りたい」って思ってもらえたら。

――確かに、おいしいものは大切な人に教えてあげたい、
一緒に食べたいと思います。
その本とはどのように出会ったんですか?

ひらめ:中学生の頃だったんですが、部活には入っていなくて、本ばかり読んでいたんですね。
大学に入ってからも何度か読み返したりしていて。

メロンパンとコンゴの事を思いついた時、
「ああ、あの“卵の緒”のフレーズもそうだったな」と。
本はあまり読み返さないんですが、作者の瀬尾まいこさんがすごく好きで、とくにその本が好きなんです。
他の本にも食事のシーンはよく登場します。

――映画化もされた「幸福な食卓」などの作家さんですね。
その本を読んで“食”への考えは、何か変わりましたか?

ひらめ:誰かと食卓を囲んでご飯を食べるって、
実家にいたのでそれが当たり前だったんです。
でも大学生になってから読み返してみると、とても大事なんだな…と。

人間関係を育む場というか、普通に会話をするのと、
食事があって会話をするのは違うんだな、
っていうのは感じました。

〈後編へ続く〉

※元記事URL(http://taberuseiji.com/2251

(※)引用:『卵の緒』瀬尾まいこ著、新潮社、30頁

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