ロシアオペラへの誘い

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【出会い】

リズミカルな音楽、コミカルな道化師、ユニークなトランプ世界の演出。このロシアオペラ、「三つのオレンジへの恋(ロシア語名:Любовь к трём апельсинам)」によって、私の中のソ連・ロシア芸術文化へのイメージは大きく覆された。力強く荘厳な音楽、暗く残酷な軍国主義、人間の精神を直に描くロシア文学の重々しさ。これらが私の、ないしは周りの多くの日本人の中にあった「ロシア」だったからである。私は、その言語を学んでいるが故にロシアへの特別な思い入れがあるが、日本人の中には多くの「ロシア嫌い」がいる。ロシアへの暗く近づきがたいイメージがその原因なのであれば、ソ連時代のこの一風変わった作品は、一人でも多くの方が、ロシアへ興味をもつ契機となるかもしれない、という期待を込め、少し紹介させていただきたいと思う。

 

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【異色な作風 「三つのオレンジへの恋」】

ロシア留学中、ロシアの作曲家、セルゲイ・プロコフィエフによりオペラ化された「三つのオレンジへの恋」を観劇する機会に恵まれた。様々な場面のある作品であったが、独特な響きとリズム感を持つ「行進曲」は特に、いつまでもその旋律が耳に残る。これには、思わず口ずさみたくなるようなメロディーを所々に用いるイタリアやフランスオペラの意気を感じた。オペラ化された当時のソ連では、プーシキンなどロシア人作家の原作や、ロシアの歴史的事実を元にした悲劇的作品が主流であったのに対し、イタリア作家の原作、しかもハッピーエンドな結末の寓話を用いている点も大変興味深い。また、即興で演じているような、滑稽な道化師の動きやパントマイムからは、イタリアのコメディア・デラルテ的要素も感じられた。これらの特徴から、作曲者はオペラ界の先をゆく伊・仏の動向に注目し、ロシアに留まらない世界的な評価を追求していたのではないかと思える。事実、この作品はロシアに西洋的風を吹かせ、ロシアオペラの新しい段階への扉を開いたと言われている。だが一方で、全体的には、作曲家独自の豊かな主題、音楽語法の表現力やファンタジー性の飛翔が見られ、プロコフィエフの、個性を追求する傲慢で抒情的作曲家な一面も、十分に感じられる作品だと思った。

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【「ロシア」のイメージって…】

寒い、暗い、怖い。ロシア留学へ行く、と伝える度に返ってきた三大形容詞である。「火のない所に煙は立たぬ」とはよく言ったもので、確かに、ロシアの冬は寒くて暗いし、『ロシア人はなぜ笑わないのか』といった研究論文が出されるほど、街行く彼らの表情は強張っていて、怖いかもしれない。社会主義時代の売り手市場の影響は未だ強く残っており、「スマイル0円」のマクドナルド店員にさえ、笑顔はない。そして、プーチン大統領の強権的政治体制がこのイメージを更に強化させている。

 

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【優れた芸術大国、ロシア】

だがもちろん、これはロシアの一側面にすぎず、特に日本においては、「おそろしあ」といったアジェンダセッティングを介した情報や知識ばかりが、多く蔓延しているように思う。様々な民族、文化や宗教観が共存し、数多くの優れた芸術家や科学者を輩出しているロシアは、知られざる芸術大国でもある。今回取り上げたオペラに限らず、ロシアやソ連の豊かな文化、歴史を感じられる作品は無限にある。留学中には、そのあらゆる文化に触れる中で、多くの魅力と新たな世界観を発見した。筆者の視点に多少ひいき目があることは否めないし、人間心理の闇を描いた作品が多いロシア芸術に、取っ付きにくさを覚えるのも仕方のないことかもしれない。そういった皆さんにこそ、この作品は、今までの暗いイメージを転換させる機会となろう。ぜひ一度、自分の目でその魅力を確かめてみて欲しい。

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