【夏休みに読もう!】経済と情報、そして自分のこと、世界のこと

『市場経済には「第3の柱」が必要である』ヘンリー・ミンツバーグ(ダイヤモンド社)

 

本書は、社会にとって重要な「政府セクター」、「民間セクター」、「多元セクター」の「三つのセクター」のうち、「多元セクター」、すなわち財団・宗教団体・労働組合といった、政府が所有しているわけでも民間の投資家が所有しているわけでもない団体などの強力なコミュニティによって構成される分類にフォーカスして、この「多元セクター」こそが社会問題を解決すると論じています。

筆者は、東欧の共産主義体制が倒れ始めた時に西側の有識者が言い放った「資本主義の勝利」という主張を「とんでもない間違いだった」と述べます。共産主義が政府セクターに権力が集中するなどしてバランスを欠いていたのに対し、資本主義は相対的にはバランスが取れていたために勝利したということが正しく理解されなかったために、共産主義の敗北後、資本主義国でもバランスが失われていった、つまりビジネス界が政界を支配するようになったと言うのです。本書は現代アメリカについて書かれた本の訳書ですが、この現象はおそらく日本を含むほとんどの先進資本主義国に当てはまるでしょう。そこで筆者は、政治に対する見方を根本から変え、「多元セクター」が「政府セクター」および「民間セクター」と対等の地位を占めることで社会のバランスを取り戻そうと主張します。

政治・社会の問題について、「どこから始めればよいのかわからない」という人は多いと思います。筆者は、抜本的刷新は多元セクターからの社会運動と社会事業から出発すると主張します。そして、迅速な転換を行う優先度が高い行動の中に、私たち一人ひとりが改めるべきものも多いと言います。しかし、本書では、示せる最良の回答は具体的な行動の処方箋ではなく、まず自分自身のバランスを取り戻し、現実に起きていることをしっかり見ること、文中では「鏡の前に立つこと」と表現されている事だとしています。本書を隅々まで読んで、自分の身の回りの事や、世界で起きていることを把握する。そうすれば自ずから行動すべきことが見えてくると言うのです。

著者は「経営学の巨人」とも呼ばれ、カナダのマギル大学大学院では経営学の、国際的な経営大学院INSEADでは組織理論学の教授になっています。しかし本書が取り扱う内容は経営学や組織理論に留まらないより広範囲にわたったものです。著者はこれまでも、さまざまな考え方を統合して論じた書籍を著しており、そうした本の多くが評価されているといいます。

本書では、多元セクターを担うのは「ほかの誰か」ではなく、「あなたが、私が、私たちが、みんなで行動する必要がある」としています。読了後は、きっと「行動すべきこと」を模索し始めることとなると思います。

 

『評価経済社会-ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている』岡田斗司夫(ダイヤモンド社)

本書は、ちょうど今起きつつある大きなパラダイムシフトを、「農業革命」や「産業革命」といった歴史上のそれにおける社会システムの変化を引き合いに出しつつ論じています。そして、電子技術による価値観変化-トフラーが言うところの「第三の波」-もまた、社会、個々人の価値観を大きく変えていくと断じ、パラダイムシフト終了後の世界を予言しています。

この大変化を、著者は「これ以上おもしろいことなんて、ありませんよ!」と述べます。では、この変化の先に待っている社会は、どんな姿をしているのでしょうか。本書が予言する未来の姿を、いくつか挙げてみましょう。

「非就職型社会」、「近代的自我から『キャラ』へ」、「『自分の気持ち』至上主義」、「『家族』の解体」……。

現代の価値観とは大きく異なる価値観を共有する社会です。現代の価値観から見れば、恐怖でしかありません。しかし、時代は確かにこうした方向に動いています。AIが人間の仕事を奪うと懸念され、「キャラ」を前面に押し出したアイドルやネット有名人が人気を集め、若者は「自分勝手」だとして批判され、家族制度の維持を強烈に訴えるのは今や日本会議のようなオッサン集団くらいです。

本書が出版されたのは2011年2月、旧版に至ってはなんと1995年です。著者の予言は次々と現実のものとなりつつあります。著者は新しい組織モデルとして、社員が社長に「仕事をするためにお金を払」う「FREEex」システムを提唱し、このシステムを採用した組織を運営していました。後に著者はこの組織からは退社し、今はDMMラウンジでの活動を行っています。DMMラウンジのようなネットサロンもまた「評価経済社会」の具現化された形であるとも言えましょう。

読後には、いま起きている変化の何たるかに納得でき、そして未来への恐れと微かな希望が身体を包みます。社会の変容に違和感を感じる方も、本書を読めば納得するかもしれません。

 

『未来を変える 情報の呼吸法』津田大介(KADOKAWA[中経の文庫])

本書は、著者のこれまでの情報との付き合い方からはじまり、超情報時代のための情報の「吸い込み方と吐き出し方」を紹介しています。そして、ソーシャルメディアがローカルな「しばり」から人々を開放し、ソーシャルキャピタル(人間関係資本)の重要性が高まると論じます。

著者は、情報はバランスよく入手すべきであると述べています。津田氏といえばインターネットを思い浮かべる方も多いでしょうが、ネットの情報については、「「完全に嘘をつくわけじゃないんだけど話を盛りがちな友人」くらいの感覚」で付き合うのが良いと言い、情報収集の3割ほどはネットで行っているとのことです。残りは新聞、書籍、雑誌などの「紙」、そして「人」。人の経験値や表に出しにくい情報は人から直接聞くことからしか得られないからだそうです。

さらに、情報を活用するにはインプットだけでなく、「仕入れた情報をどうアウトプットするか」が重要だと論じています。Twitterフォロワー約80万人にも及ぶ著者の経験が生かされた情報のアウトプット法、パブリックとプライベートのバランスのとり方、発信する情報についてのアイデア法が載っています。こうして、情報のアウトプットをソーシャルメディアを通じて行っていくと、薄くとも広く多面的なウィーク・タイズ(ゆるやかな絆)が生まれ、自身のソーシャルキャピタルが豊かになっていくと述べています。

本書の前半は、著者と情報とのこれまでの関係性について多くが費やされています。著者のメディア人としてのキャリアの原点は、高校の新聞部にあるといいます。そして大学に進学すると黎明期のインターネットに触れ、ホームページ作成に明け暮れたそうです。その後雑誌ライターとなったものの、ネット系雑誌業界が下火になるとブログ形式のサイト運営を始めるという、新旧メディアに関わった経歴の持ち主です。今も新旧メディアを組み合わせて発信し、「新メディア」の中でもTwitterのような最近のものからメルマガといったやや古めのネット媒体を併用しています。この理由も本書で明らかになっています。

情報社会と言われる現代でも、情報を摂取するだけでアウトプットをしない人は少なくないでしょう。著者は「情報は発信しなければ、得るものはない」と主張しています。読了後は何かを発信したいと思うようになるのではないかと思います。それは本書にあるようなニュースキュレーションかもしれませんし、ここSeiZeeへのライター登録かもしれません。

さて、ここまで3つの本をご紹介してきました。編集部からは記事の主な対象は大学生と言われていますが、紹介した本はいずれも認知的負荷もそれほどかかりませんし、中高生の方でも読みやすいかと思います(そもそも私自身がまだ高校生ですから)。夏休み本番、ゆとりのある方もそうでない方も、本に関心のある方もそうでない方も、この機会に少しでも本に目を通して、自分のこと、身の回りのこと、世界のことについて考えてみてはいかがでしょうか。

福井健一郎

福井健一郎【社会・政治】

投稿者の過去記事

政治に関する話題や言論について考察したり、社会において若者ができることを勉強しつつ述べていき、SeiZeeの理念の一つ「世論の向上」を実現し、一人ひとりが政治に関わる社会を目指していきます。

長野県野沢北高等学校3年/小中高生対象のリサーチサービス「ネクスボイス」元最高技術責任者/一般社団法人信州若者会議会員/日本若者協議会会員

Twitter: @fk_mb
Facebook: https://www.facebook.com/fk.onl/

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