【戦後70年を迎え、日本はこれからどうあるべきか・後篇 京都大学大学院・中西寛教授】

前篇から続く

―――18歳選挙権の成立もありましたけれども、我々学生・若者が、安全保障体制や国際関係なども含めて、政治について持つべき視点、学ぶべきことなどについてお聞かせください。

 

日本の視点にとらわれず、現実に即して広く世界の視点から考えてほしいと思います。

現在の日本の場合には戦争と言えば第二次世界大戦が戦争体験として圧倒的です。それはあの戦争の持った大きさや重みからすれば当然と言えば当然なのですけれども、過去70年、つまり日本が基本的に平和だった70年の間でも世界ではたくさんの戦争や紛争や多くの暴力行為が存在したわけです。そういった過程の中で、世界各国がそれぞれの国の「やり方」を考え蓄積させてきました。そういう状況に日本人はあまりにも無関心すぎます。日本人student-849828_1280が巻き込まれたり、アメリカが軍事力を行使したりしていなければ、海外の紛争に真剣に関心を持つ人はごく少数です。ですから若い人は、日本の安全保障の議論を外国の同年齢の人たちとそれこそSNSを使ってやりとりしてみたらいいと思います。日本の平和主義を評価してくれる人もいれば、そんな考え方は自分の所では通用しない、という人もいるのではないかと思います。ともかく閉鎖された認識空間にとどまらず、若い人たちは色々なコミュニケーションツールもあるのですから、日本を離れた視点に 触れていくことが大切です。もちろん世界で一つの決まった常識がある訳ではなく、国や地域によってさまざまに異なるでしょうけれども、少なくとも日本人とは違う経験をして、違う考え方を持った人はたくさんいるのですから、そういった特に同年齢の人たちがどう考えるか、どういう意見を持つかというのをコミュ ニケーションを通じて知っていくことが必要だと思います。

 

―――日本は今年戦後70周年を迎えたわけですけれども、刻々と国際情勢が変わっていく中で、日本が世界の中でどのような立ち位置にいるべきなのか、どういう道を歩むべきなのかということについてお聞かせください。

 

戦後70年で日本が他国と軍事的紛争をせずに済んだということは、日本人にとってポジティブに捉えて良いことだと思います。その成果を踏まえたうえで世界の 平和や紛争の解決などのために貢献するというのが基本的スタンスだと思いますね。その中では戦争への反省や謝罪というような言葉を首相が使うかどうかとい うことなども政治的に論争になりますけれども、それは本質的な問題ではなくて、やはり日本という国に住んでいる限りは、戦争を知らない世代も含めて戦争の 反省と教訓というのを汲み続けなければならないと思います。

先の戦争は多くの悲惨さや一般市民の犠牲をもたらしましたが、人間社会に存在す る暴力の矛盾、パラドクスといったものを当時の日本の政治も社会も十分に理解していなかったということがその根本として挙げられると思います。戦前の日本、明治時代後半から昭和戦前期の日本というのはアジアの中で圧倒的な軍事のチャンピオンでした。特に日露戦争で勝ったということになり、アジアの他の国などまるで相手にならないと政府も軍部も国民も思っていたわけです。けれどもだんだんと国際情勢が変わり、アメリカやソ連が力を伸ばし、中国も革命の結果、国民党、共産党が出きて日本に抵抗するようになった。日本は王座が脅かされたと感tank-832810_1280じて、焦りや恐怖を感じつつ、中国との戦争では相手を見くびって深みにはまってしまいました。計画も準備も欠いて無理な戦いをしていった先に、南京虐殺など、日本軍による非人道的行為が生じる背景があったのです。

こうしたことを踏まえれば、戦後七〇年を経た日本の生き方として、安全保障や暴力について目をそらすのではなく、考え続けること。そもそも国際関係というものは力とか暴力などを抜きにして考えられるほど秩序正しいものではないので、重要な争点を巡って軍事力や暴力が使われる危険性が生じることは避けられない 面があります。そうなった時に、いかに力を使わずに、また使うとしても抑制的に無駄な暴力を少なくして問題を解決するかというのが知恵であり、安全保障の考え方ですが、こうした考え方が戦前の日本には非常に大きく欠けていたことが大きな間違いですね。こうした考え方の甘さが真珠湾攻撃などにもつながり、結果として甚大な犠牲を生み出したということだと思います。それに対しての深い反省というのが現代に至っても非常に大切で、軍事とか安全保障の問題というのを単に平和か戦争かという単純な二元論ではないと考える視点が重要です。日米関係についても、日米安保同盟があるとか集団的自衛権を行使するから戦争に巻 き込まれるとかといった単純なものではありません。アメリカのすることにただ賛成か反対かと言うのではなく、しっかりした考え方を日本人が持てば、アメリ カが仮に戦争を行うにしても日本はこの戦争には参加しないとはっきり言えるし、戦争に至らない場合にもアメリカが真剣に日本に相談しうる影響力も出てくる と思います。

 

―――自分で良く調べて、しっかりとした考えを持つと。

 

論語に「学びて思わざれば」とあるように、よく調べて考えたうえで自分の意見をしっかり持つということが大事です。単に思いつきの意見では通用しないので、 世界情勢をよく認識したうえで自分の価値観、立場に立って意見を持つということになればアメリカでも中国でも聞く耳は持つでしょう。そういうことをせずに 単に平和を唱えるとか、逆に軍事力だけに頼るとか、そういうもので問題が解決するとは思えません。

 

法というのはあくまで枠組みなので、特に現在の安保法制にしても、法的には政府や日本に義務を託すものではありません。「何かをしなければいけない」ではなくて、「何か をすることができる」という形になっているのですから、できてもやらないという選択は十分ありうるし、それが本来望ましい姿であろうと思います。法的にで きないんだ、憲法上できないんだ、という話は日本が冷戦中に行ってきた一種の八百長の説明であるとさえ思いますし、そういうレトリックやロジックはもうやめて、「法的には可能だけれども、それをやるかやらないかは政治の判断だ」と。そういう風にするのが真っ当だと思います。しかし、そのようにするために は、政治も世論も熟考を要します。

政治も世論も、軍事や安全保障について理解せずに賛成や反対と言っているきらいがあるのは否めないと思われますし、それが安保法制が通った時の一つのリスクであろうとは考えています。ですが、これは「鶏か卵か」という問題で、現状を変えなければ、そういうものについて思考が深まるというのは非常に難しいでしょう。私自身は、現在の国際情勢からすれば現状を変える必要性はあると思いますから、日本人が、政治家も世論も含めて従来とは違ったレベルで安全保障とか軍事の問題を考えるようにして、政府はその判断をきっちりできるようにする。そういう必要性があるよ うに思いますね。

 

―――これからの国際社会に対して日本が貢献できることは何でしょう。

 

私は安保法制の中で議論されている、自衛隊が安全保障分野での活動を増やすということにも一定の意味はあると思いますが、基本的には、日本の主たる役割は世界の紛争をいかに抑制し、あるいは紛争を予防していくかというところにあると思います。特にいわゆる発展途上地域では、内戦やテロ、貧困であるとか、そう いった問題が絡み合って紛争が起きていると言えましょう。そういう地域の解決のためには、軍事力は決定的な手段にならないと思っています。ただこういうと すぐに軍事力に意味はないと言う人がいるので困りますが。決定的でなくとも、補完的には意味があるのです。

実際、軍事力では最大と言われる アメリカなどがうまく問題解決できないのは、現地のニーズに十分こたえていないという表れであると思います。逆に日本は、現地社会の問題に対して解決を与 えるという点で見ると、持っているノウハウやエネルギーというのは決して小さなものではないと思いますね。

children-734891_1280日本は世界的に見ても珍しい文化や技術の特質を持っていますから、そうした地域での紛争の予防や抑制に貢献する、あるいは日本がイニシアティブをとって国や国際機関、NGOとの協力をすれば、現状よりも改善できる分野というのは大いにあると言えるでしょう。ですから、そういうことが日本の国際貢献の柱となるべきで、もちろんそれと両輪と なる面があったとしても、軍事などがメインになるということは望ましくないでしょう。日本が大きな軍事力を派遣する国家になってほしいと思っている国はアメリカを含め世界にどこにもありませんから。日本の国力を考えてみても、そういった選択をとることはありえないだろうと思います。

 

―――その地域に合ったニーズということですね。

 

現地のニーズというのは千差万別なので、まずローカルニーズを知る必要があります。そのためにも政府開発援助(ODA)なども増やす必要があります。先進国共通目標のGNP比0.7%に対して日本の現状は0.2%台で、しかも増額よりは減額を求める声が強いのです。もちろんODAは万能ではなく、増やすだけでよい訳ではありませんが、現状では少なすぎます。日本が持っているリソースで何ができるか、あるいは国際的にどういう働きかけができるかを知るために も、一定規模の予算と人は必要です。

 

 

文責:SeiZee編集部(2015年8月6日インタビュー)

写真引用元:https://pixabay.com/ja/

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