なんか様子が違う「敗者の弁」ーヒラリーの名言から読み解くアメリカ大統領選の真実②

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大統領選挙での敗北が決まった翌日、支持者の集まった会場でヒラリー・クリントン氏がコンセッション・スピーチ(敗者の弁)を述べました。

私は前日の勝利演説の予定会場にいたのですが、開票が深夜に及び、結局その日は結果が確定しないということでヒラリー氏の演説を直接聞くことはできませんでした。そして翌日早朝、ヒラリー氏の敗北が決定し、改めてスピーチの場が設けられました。
現地メディアも日本メディアも、ヒラリー氏のコンセッション・スピーチを好意的に受け止め、その素晴らしさを世界中に発信しました。
私自身もオンラインでスピーチを拝見し、その力強いスピーチと垣間見える切なさに圧倒されていました、
ところが、振り返ってみると今回の「敗者の弁」は少し様子が違います。2000年以降の選挙のコンセッション・スピーチを振り返って記事を書いたことがあったのですが、それらに比べると明らかに何かが違いました。それを言語化してみようと思います。
(ログミーに全文翻訳が載っていましたので、全て読みたいという方はこちらへどうぞ。以下の訳文はログミー掲載のものによります。)

最初に「…お」と感じたのは、次の一文でした。

私たちは彼に、開かれた心とリーダーシップへのチャンスを託しました。私たちの立憲民主主義は、権力の平和的移行を重んじています。

これは前半部分に出てきたのですが、それまでは「ドナルド・トランプ氏が、すべてのアメリカ人にとって、すばらしい大統領になってくれることを願ってやみません。」などの、いわゆる「模範的な」コンセッション・スピーチが展開されていました。つまりミット・ロムニーやアル・ゴアなどが行ってきた模範的スピーチです。
しかし、この一文はニュアンスが異なります。「ドナルド・トランプ氏は権力の平和的移行を行うべきだ」という楔を打ち込んだように聞こえました。
そして、直後にこの文章が続きます。

私たちはそれを尊重するだけでなく、極めて大切にしています。また、人権や尊厳は平等であるという原理原則、信仰と表現の自由といった、法の原則をも尊重しています。私たちは、こういった価値観を尊重、遵守し、守っていかなくてはなりません。

これもこれまでの模範的、形式的コンセッション・スピーチでは見られなかった内容です。おそらく特定の人種や宗教の信者を対象にヘイトスピーチに近い言動を行ってきた新大統領に対するメッセージに聞こえます。
それを前提に振り返ってみると、ヒラリーさんは直前にこう言っています。

私たちが活動してきたのは、個人のためでもなく、たった1回の大統領選挙のためでもありません。私たちが愛するこの国のためであり、希望に満ちた、分け隔てのない、寛容性を持つアメリカのためなのです。

これ以上分断を引き起こさないようにしようと伝えているように聞こえます。

私たちの立憲民主主義は、国民の政治参加について、4年おきではなく、常時に定めています。ですからこそ私たちは、私たちみんなが大切に思っている理念や価値観と共に、先へ歩んでいかなくてはなりません。富裕層だけでなく、国民みなが豊かになり、この国と世界を守っていかなくてはいけないのです。
また、アメリカンドリームの実現を阻む壁を打ち壊さなくてはなりません。私たちは、この国の隅々から何百万人もの人々の声を集めて1つにし、アメリカン・ドリームは、すべての人のために行き渡るほど大きいのだ、と発信することに1年半を費やしてきました。全人種、宗教、性別、移民、LGBT、障害者といった、すべての人々のためにです。

ヒラリー氏は、今回の選挙の結果を甘んじて受け止め、次の4年間のリーダーはドナルド・トランプ氏だと述べました。彼が素晴らしい大統領になることを「願っている」と。これまでのコンセッション・スピーチでは「信じている」が多かったのと対照的です。
そして、支援者らに対して上記のように述べました。ここにはヒラリー氏の最後のメッセージが見えます。選挙は終わったが、戦いは続く。私たちはこの国と世界を守らなくてはならない。そのために、常に政治参加を続けてくださいと。
今回のコンセッション・スピーチは、ここ数十年で行われたものの中で、もっともパワフルかつ示唆的なスピーチでした。「様子が違う」と感じたのはそういうところだったと思います。ちなみに、一番好きなコンセッション・スピーチは、オバマ大統領に負けたジョン・マケインさんのもの。コンセッション・スピーチについてはクーリエ・ジャポンに寄稿しておりますので、よろしければこちらからご覧ください(有料会員限定ですみません)。

余談
それにしても、コンセッション・スピーチを聞きながら、「あぁヒラリーさん、結局大統領なれずじまいだったなぁ…。」と思い、うるうるしてしまいました。彼女は2008年の大統領候補として最有力だったのにオバマが現れ、今年はトランプが現れ…。弁護士としても、ファーストレディとしても、いつも子供と女性のことを考え、上院議員、国務長官時代は過去最高の支持率を得ていました。そんな彼女も、敵と味方に分かれる二大政党制においては、「嘘つき」と呼ばれ、「嫌われ者」と言われました。
オバマ夫妻とクリントン夫妻は、これで政治の舞台から離れるそうです(少なくとも一旦は)。だから、これで心置きなく、政治のしがらみも気にすることなく、社会で苦しむ方々のために仕事をすることができます。本当にすごいご夫婦たちです。
★「民主主義はどこから来て、どこへ行くのか」をテーマに、大統領選挙を追ってきました。この旅も残り数日となりましたが、ジャーナリズム型クラウドファンディング応援してくださると幸いです。

徐東輝(とんふぃ)noteより転載

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徐東輝

徐東輝【政治】

投稿者の過去記事

若者と政治をつなげるivote関西代表。ダボス会議グロバールシェイパー。京都大学法科大学院生として学ぶ傍ら、政治教育・メディアのあり方を探っています。日韓×憲法の視点で執筆中です。

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