【学生よ、慌てるな。今こそ書物に向き合おう。】京大教授陣が選ぶ30冊〜トランプ後の世界を読み解く〜

2017年1月20日、太平洋の向こうアメリカで、第45代大統領の就任式が執り行われました。
就任したのは、そう”ドナルド・トランプ”です。

トランプ大統領の就任を受けて、ワシントンではデモが一部暴徒化し、マイノリティーの方々をはじめ様々な人々が不安の声をあげています。ここ日本でも、トランプの描くアメリカ第一の国家像に不安を抱いている方も多いでしょう。

そうした人々の不安を不安で終わらせないために、慌てずゆっくり書物に向き合う時間をとってもらえればと、この記事には、京都大学の、政治・外交・アジア・イスラーム・アメリカ文学・ドイツ文学などの専門家10人にお選びいただいた、30冊の本をご紹介しています。選書のテーマは「新世界〜台頭する新たなリーダーが描く世界を読み解く〜」です。

2016年はトランプ大統領誕生のみならず、EU離脱の英国民投票、比・ドゥテルテ大統領の誕生、韓国での大統領弾劾など、世界のリーダーについて多くの変動がありました。また、今年2017年は、ドイツの連邦議会選挙、フランス大統領選挙が控えています。また、ここ日本でも総選挙が行われるとの報道もあります。こうした時代の中で、新しいリーダーたちはどのような世界を描くのか、またその前提としてどのような世界を今、見ているのか・存在しているのか・あるいは存在してきたのか。そうしたことを知ることを通じて、この一連の変革も、そしてそれに対してとるべき行動も見えてくるに違いない。そのように考えています。

「危機の時代」を冷静に読み解くためには、視野を広げて世界史から「変わることがないもの」を見つめ直した方がよい。ウェブの世界から少し身を引いて、19世紀を代表する文化史家の名講義に沈潜できる余裕こそが必要なのではないか。

ー匿名希望の某教授の推薦文より(ヤーコプ・ブルクハルト『世界史的考察』ちくま学芸文庫2009 )

選書は以下のように整理させていただきました。興味のあるところからどうぞ。

全30冊です。
A.アメリカ
B.日本
C.ヨーロッパ
D.南アジア・アフリカ
E.イスラーム
F.ユダヤ
G.世界・その他

 

A.アメリカ

1. 待鳥聡史『アメリカ大統領制の現在』(NHKブックス)
アメリカ大統領制の現在―権限の弱さをどう乗り越えるか (NHKブックス No.1241)

アメリカ大統領の権限が意外なほど小さいことが、歴史と制度を踏まえて、明快に示されている。「トランプのアメリカ」の行末に関心を持つ全ての人に、一読を薦めたい。

奈良岡聰智 京都大学法学部教授(日本政治外交史)


2. バリー・グラスナー『アメリカは恐怖に踊る』(草思社 2004年)
アメリカは恐怖に踊る

原題「恐怖の文化」の方がわかりやすい。危機を煽るメディアのビジネスモデルの陥穽が鋭く指摘されている。既存メディア不信やPCへのバックラッシュなど、ブレグジットや米大統領選挙の「世論」を考える上でなお有益な書物。

匿名希望


3. 平林紀子『マーケティング・デモクラシー』(春風社)
マーケティング・デモクラシー: 世論と向き合う現代米国政治の戦略技術

民主主義も結局のところ「人気商売」に行き着くとすれば、そこでもっとも活躍するのは「マーケティング的な知」ということになるだろう。現代社会において、わたしたちはマーケティング的な環境から逃れることができるのだろうか。

佐野亘 京都大学人間・環境学研究科教授(政治理論)


4. ジョナサン・ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学』(紀伊國屋書店)

 

 

B.日本
5. 五百旗頭真・中西寛編『高坂正堯と戦後日本』 (中央公論新社)

戦後日本を代表する国際政治学者の没後20年を機に編まれた論文集。深い洞察を持って、現実の政治や社会と切り結んだ高坂の言論活動から、学ぶべきことは多い。

奈良岡聰智 京都大学法学部教授(日本政治外交史)


6. 吉見俊哉『親米と反米―戦後日本の政治的無意識』 (岩波新書 2007年)

 

7. 野間易道 『「在日特権」の虚構ーーネット空間が生み出したヘイト・スピーチ』 (河出書房新社 2015年)

今も止むことのないヘイト・スピーチ。京都朝鮮学校襲撃事件は、私たち京都在住者の記憶に新しい。特別永住資格、年金、住民税などをめぐる「在日特権」言説の虚構が精緻な検証によって暴かれる。「在日特権」や「同和利権」という言葉に惑わされないために読んでおきたい一冊。

竹沢泰子 京都大学人文学研究所教授(文化人類学)

 

C.ヨーロッパ

8. 細谷雄一『迷走するイギリス』(慶應義塾大学出版会)


9. 池田浩士『ヴァイマル憲法とヒトラー』(岩波書店 2015年)

 

10. ヘルムート・プレスナー『ドイツロマン主義とナチズム』(講談社学術文庫 1995年)

「詩人と思想家の国」でなぜナチズムが勝利したのか――ルター派信仰に背を向けたドイツ教養市民層は代替宗教としての哲学に〈生きる意味〉を求めた。その哲学が「イデオロギー懐疑」によって失墜したとき、彼らには「血と大地」という「民族生物学」しか残されていなかったのだ、とプレスナーは言う。ナチズムは〈生きる意味〉の空白を衝いた。新たなイデオロギーが現代の精神的空白を衝くとき、私たちはそれに耐えうるだろうか。

大川勇 京都大学人間環境学研究科教授(ドイツ・オーストリア文学)


11. 大川 勇『可能性感覚――中欧におけるもうひとつの精神史』(
松籟社 2003年)

ムージルの『特性のない男』は〈生きる意味〉を探求する男の物語である。その男ウルリヒのもつ唯一の特性が「可能性感覚」――現実を虚構と見なす精神の視角だ。現実とは偶然今ここにある形で存在しているものに過ぎない、その背後には現実となりえたかもしれない無数の可能的世界がある……そう考えるとき、〈生きる意味〉の探求は無数の可能的世界に向かうユートピア探求となる。『愛の完成』のクラウディーネもまた、偶然今ここにある愛を捨て、可能的愛の試みに向かう。「もっと別の遙かな生のあり方が自分のために定められているにちがいない」との思いを抱いて。愛すらも困難な現実の中で、人は精神の空白を埋めるべく動き始める。錯綜した世界を生きるには夢想的思惟が必要だ、と文学がささやく。

大川勇 京都大学人間環境学研究科教授(ドイツ・オーストリア文学)


12. ヴィクトル・E・フランクル『夜と霧』(みすず書房 2002年)

 

D.南アジア・アフリカ

13. M.K.ガーンディー『ガーンディー自叙伝1・2―真理へと近づく様々な実験』田中敏雄訳注 (平凡社 2000年)


14. ウルワシー・ブターリア著『沈黙の向こう側―インド・パキスタン分離独立と引き裂かれた人々の声』藤岡恵美子訳 (明石書店 2002年)

「分断の政治」が生み出した、とてつもない悲劇の現実を伝える名著である。100万人の犠牲者、10万件のレイプを引き起こしたとされる1947年のインド・パキスタン分離独立に関し、著者はそれまで取り上げられることの少なかった女性の声に着目して、悲劇の新たな側面を明らかにした。著名なフェミニストである著者ならではの功績である。現代の世界を覆いつつある「分断の政治」の恐ろしさを見据える上で必読の書と言えよう。訳文もわかりやすい。

中溝和弥 京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科教授(南アジア)


15. アルジュン・アパドゥライ著『グローバリゼーションと暴力―マイノリティーの恐怖』藤倉達郎訳(世界思想社 2010年)

グローバル化が進展する世界において、なぜ、マイノリティーに対する迫害が増しているのか。インド出身の著名な人類学者が、この問いに正面から挑んだ著作である。対象は南アジアに限らないが、2002年にインド・グジャラート州で起ったムスリムの大虐殺事件に対する深刻な憂慮が本書を支える大きな動機になっている。現在の「分断の政治」を考える上で、一つの手がかりを与えてくれるであろう。名訳である。

中溝和弥 京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科教授(南アジア)


16. 高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)

世界の人口のおよそ8割はいわゆる発展途上国に暮らしている。そして、言うまでもなく、発展途上国は先進国以上に多様であり、日本人にとってはまったく想像もつかないような、驚くべき政治や社会の仕組みのもとで暮らしているひとも少なくない。新しい世界を考えるうえで、こうした多様なリアルを踏まえておくのは決定的に重要なことに違いない。講談社ノンフィクション賞を受賞した名著。

佐野 亘 京都大学人間・環境学研究科教授(政治理論)

 

E.イスラーム

17. 池田美佐子『ナセル――アラブ民族主義の隆盛と終焉』(山川出版社 2016年)

今から60年前、世界はアメリカとソ連の冷戦によって二分されていました。そのいずれにも属さず、欧米からの真の自立を掲げる非同盟運動がアジア・アフリカで盛り上がりを見せました。アラブの政治舞台に颯爽と登場し、欧米と互角に渡り歩いたナセルは、この運動の象徴的存在として世界各地に大きな影響を与えました。そして、欧米の代理戦争の様相を呈してきた今の中東の騒乱の中で、ナセルの掲げた理念が再び人々の心を捉えようとしています。新時代の世界秩序のあり方を歴史から学ぶために最適な一冊です。

長岡慎介 京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科准教授 (イスラーム)

 

18. 森伸生『サウディアラビア――二聖都の守護者』(山川出版社 2014年)

アラブの地域大国、中東随一の産油国、聖地メッカを擁するイスラームに厳格な国。多彩な顔を持つサウディアラビアは、国際政治やグローバル経済の舞台でその存在感を増してきています。しかし、その内実は意外と知られていません。伝統を保持しながらも、新時代の世界潮流に柔軟に対応しようとしている老獪な新興国サウディアラビアの来し方行く末を知るために最適な一冊です。

長岡慎介 京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科准教授 (イスラーム)


19. 佐藤百合『経済大国インドネシア――21世紀の成長条件』(中公新書 2011年)

 

F.ユダヤ

20. 勝又悦子・勝又直也著『生きるユダヤ教-カタチにならないものの強さ-』教文館2016年


21. A.コーヘン著、村岡崇光・市川裕・勝又悦子訳『タルムード入門1~3』(教文館 1997年)

キリスト教やイスラームにとっても聖典である聖書(成文律法)と並んで、古代末期から現代にいたるまで、ラビ(律法学者)のリーダーシップによるユダヤ教の根幹をなしてきた書物は、口伝律法と呼ばれるタルムードです。この難解で膨大な書は、中世のキリスト教社会においては悪魔の書として反ユダヤ主義の標的にもなりましたが、実際には、自らの土地や国を持たないユダヤ人に逞しく生きていくすべを教える生活の書だったのです。本書は、一見とっつきにくいこのタルムードに見られるユダヤ人のモノの考え方や信仰についてわかりやすく紹介した書です。

勝又 直也  京都大学人間環境学研究科准教授(中世ヘブライ文学)

 

G.世界・その他

22. 中野剛志著『富国と強兵 ~地政経済学序説~』

ブレグジットやトランプ現象、尖閣問題やイスラム国問題、リーマンショック等は、一見別々の問題に見えるが、それは全て、大きな世界史的潮流の個々の支流的現象にしか過ぎない。経済と政治・軍事問題は別々のものでなく、大きな一つの実態的な世界史的潮流を別々の角度から眺めたものに過ぎない。その潮流の実態を理解する新しい学問こそ、中野氏が提唱する地政経済学だ。現代の世界を読み解く道しるべとして必読の書である。
藤井聡  京都大学大学院工学研究科教授(レジリエンス実践ユニット長/内閣内閣官房参与)


23. 中野剛志著『世界を戦争に導くグローバリズム』

EU統合やTPPをもたらした「グローバリズム」は、各国の経済状態に影響をもたらすばかりでなく、世界中の戦争状態をもたらした。グローバリズムは各国の経済を破壊し、庶民の不満を膨張させ、ナショナリズムを喚起するばかりではなく、覇権国の衰退と新興国の勃興をもたらし、世界中で軍事バランスを不安定化させる――こうした、グローバリズムが戦争を導くプロセスは、歴史を振り返れば、第一次大戦や第二次大戦が、当時のグローバリズムがもたらしたものである、という史実によっても裏付けられている。

藤井聡  京都大学大学院工学研究科教授(レジリエンス実践ユニット長/内閣内閣官房参与)


24. エマニュエル トッド, 柴山 桂太, 中野 剛志, 藤井 聡, 堀 茂樹, ハジュン チャン『グローバリズムが世界を滅ぼす 』


25. 吉田徹『ポピュリズムを考える―民主主義への再入門』 (NHKブックス 2011年)

米国のトランプ現象から英国のBrexitや欧州極右勢力の台頭まで、移民排斥の訴えを伴うポピュリズムが世界を覆っている。本書はポピュリズムを大衆迎合と切り捨てるのではなく、その負の側面に焦点を当てつつも、機能麻痺する政治システムの刷新を促す建設的側面にも着目する。ポピュリズムを現代民主政治に不可避的なものと捉える本書は、政治の再ナショナル化や「敵」の創造など今日の政治現象の来歴を理解する上で示唆に富む。

齋藤 嘉臣 京都大学人間・環境学研究科准教授(国際政治)


26. マーレー・エーデルマン『政治スペクタクルの構築』(青弓社 2013年)

本書を読んでいたので、トランプ勝利は十分に予想できた。構築主義的政治学の古典であり、 政治ニュースの読み方を学ぶのに最適なメディア・リテラシー教科書。

匿名希望


27. ポグントケほか『民主政治はなぜ「大統領制化」するのか』(ミネルヴァ書房)

近年、大統領制、議院内閣制を問わず、行政府の長に注目が集まるとともに、その影響力が増大しているように見える。そしてその一方で、議会は軽視されているように思われるが、そもそもなぜこのような状況に陥っているのだろうか。本書はひとつの説明を提示するものにすぎないが、いろいろと考えさせられる。

佐野 亘 京都大学人間・環境学研究科教授(政治理論)

 

28. 川島浩平・竹沢泰子編著『人種神話を解体する 第3巻 「血」の政治学を越えて』(東京大学出版会 2016年)

今は空前の「ハーフ・ブーム」。しかしその陰には、[社会的]人種、ジェンダー、階級・社会的地位との交錯による表象のヒエラルキーが見出される。「ハーフ・ブーム」は何を可視化させ、何を不可視化させているのか、また当事者はどのような葛藤・交渉を経ながら自らの生き方を模索しているのか、韓国・朝鮮、沖縄、パキスタンなどをルーツの一つにもつ人々を対象とした考察も含まれる。日本社会を基軸としつつグローバルな射程からこれらの問題に迫る新刊書。

竹沢泰子 京都大学人文学研究所教授(文化人類学)


29. E.H.カー(原彬久訳)『危機の二十年――理想と現実』 (岩波文庫 2011年)

第二次世界大戦直前に出版された本書は、20年代の平和構想をユートピアニズムと批判する。軍事力の効用を説くため、これまで現実主義の古典として扱われてきた。だが規範や利益も重視するカーは単純な「現実主義の父」たることを拒んでおり、理論の歴史拘束性やイデオロギー性への洞察はむしろ批判理論と調和的ですらある。国際政治研究に向けた基本的視座を学ぶ上で必読書とされてきたが、本書の射程はこれまでの想定よりずっと広い。

齋藤 嘉臣 京都大学人間・環境学研究科准教授(国際政治)


30. ヤーコプ・ブルクハルト『世界史的考察』(ちくま学芸文庫 2009年)

「危機の時代」を冷静に読み解くためには、視野を広げて世界史から「変わることがないもの」を見つめ直した方がよい。ウェブの世界から少し身を引いて、19世紀を代表する文化史家の名講義に沈潜できる余裕こそが必要なのではないか。

匿名希望

 

終わりに

いかがでしたでしょうか。
この一連の書物がみなさんの知的冒険の一助になっていましたら幸いです。慌てずゆっくり、でも確実に、この世界を視ていきましょう。

なお、本企画では、京都大学生協ルネ書店にて、1/16~2/3の予定で、店頭特設コーナーを設置していただいており、ここでご紹介した本を取り揃えています。(一部未入荷です。)お近くに起こしの際はぜひお立ち寄りください。記事中の手書きpopは店頭設置しているものです。

最後になりましたが、ご協力いただきました諸先生方、お忙しい中大変ありがとうございました。心より御礼申し上げます。

 

Mielka(旧ivote関西)

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若者の政治参画の促進、特に投票率の向上、投票の質の向上を目指して活動している団体です。
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