「4つの願い」イスラム国に抱く

「私はまだ覚えている。それは寒い夜のことだった。私は凍え、疲れ果てていた。こんなにも歩いてきてなお、あとどのくらい歩けばたどり着くのかもわからなかった。一緒に国境を渡ったのは、皆互いに知らない者同士だった。それぞれに違った背景と、違った痛みを抱えた私たちだったが….その夜、たったひとつ同じ目標を共有していた。(しかるべき場所へと)移り住むことだ。全能の神に誓って。」(*1)

これは、イスラム国へ参加した欧米女性のひとりが、自身のSNSに投稿した文章だ。近年、イスラム国に参加するためシリアへ向かった欧米人は約3000人にのぼる。そのうちの1割を超える、約550名が女性である。(*2)

このような事実に対し、「何が彼女たちを決断させたのか、そのことにとても関心がある」(*2)と語る、研究者がいる。キングス・カレッジ・ロンドンの、メラニー・スミス氏だ。彼女は、イスラム国へ参加した欧米女性による、SNSのつぶやきを追う。スミス氏らのリサーチから見えてきた、欧米女性たちがイスラム国に抱く「4つの願い」とは何か。彼女たちの声とその躍動感に、耳を傾けてみたい。

 

1. いまより温かい待遇を求めて

「イスラム教信者を排除しようとする人々に囲まれ、どうやって(幸せに)生きることができるっていうの?」(*1)

まず最も目立つのが、イスラム教信者が被害にあった事件に関する写真や映像のリツイートや、また自分自身がムスリムであるが故に好ましい待遇をされなかった経験についての投稿だ。

苦い経験をさせられた欧米諸国への怒りを露にする。それとは対極に、より自身の存在を温かく歓迎される環境『イスラミックユートピア』への期待が、彼女たちに国境を渡る決断をさせる。

 

2. 幸せな『天国』を夢見て

「全身全霊を捧げてイスラム教を信仰する者に、安全な天国は待っている。」(*1)

彼女たちの多くは、イスラム教中心世界の実現へ向けてより貢献をすることが、ムスリムとしての忠誠の尽くし方だと信じている。その結果、より素晴らしい死後の世界『天国』へ行けることを夢見ているのだ。

むろん、そう信じさせるようなイスラム国の巧みな宣伝活動も大いに影響している。

 

3. 勇敢で、逞しい男性に憧れて

「男性が出来る最大のことは、ジハード(闘うこと)。女性が出来る最大のことは、廉直な妻であること、そして廉直な子を育てること。」(*1)

信念に従って行動し、闘うことを恐れない逞しい男性と結婚し、彼等を妻として支えることへの使命感や充実感が伺えるようなツイートが、度々見受けられる。

自分自身も闘うことを望む声も少数あるが、多くは闘う男性を支えること自体に、生きがいややりがいを見出しているようだ。

 

4. 強い絆と、居場所を探して

「ここでの人々の関係性は、本当に素晴らしい。絆はすぐに育まれ、うわべだけの関係性など存在しない。」(*1)

欧米で生活していた頃に比べ、より絆の深い関係性を持てていると感じている女性が多いようだ。例え出身国が違っても、同じ志のもと、平等に温かく受け入れられる。

近所に住む女性同士の交流の様子を投稿する文面や写真からは、まさにこういったものを求めていた、といわんばかりの幸福感・満足感が伝わってくる。

 

これらの、4つの希望。その背景には、より充実した、より使命に対して忠実な人生を全うしたい、そんな普遍的な願いが伺える。こうした願いに対し、彼女たちの欧米での境遇や日々の生活に、最も光を差し込んだのが、「たまたま、イスラム国だった」のかもしれない。

今回、私(筆者)が本テーマを取りあげたのは、友人の何気ないコメントに対する違和感からだった。「イスラム国への参加を志願する外国人が、ますます増えているらしい」と指摘したときのこと。「なんて親不孝な行動だ」と、瞬時に返ってきた、その一言だ。もっともな感想、なのかもしれない。ただ、疑問が残った。何らかのきっかけで意を決し、荷物をまとめた彼女たちが(または彼等が)抱いた純粋な”希望”に、わずかでも寄り添うことができたら・・・わたしたちの会話の結論は、変わっただろうか。各国政府の、彼女等(彼等)への対応は、変わるだろうか。非難し、罰することがベストなのだろうか。かといって、共感し、受け容れ、許すことが果たして正なのか。

「イスラム国参加への志願」。このことばがもつ強烈な響きをくぐり抜け、事実のあらゆる側面にゆっくりと寄り添いながら、これからも問うていきたい。

 

引用文献:

(*1)キングス・カレッジ・ロンドン ICSR 研究論文「Becoming Mulan?」

http://www.strategicdialogue.org/ISDJ2969_Becoming_Mulan_01.15_WEB.PDF

(*2)AFP記事 http://www.afpbb.com/articles/-/3051702?page=2

トップ画像:

taken by jessicatam on flicker

世羅侑未

世羅侑未【国際、教育】

投稿者の過去記事

こんにちは、世羅です。普段は「現場力を鍛える教育」の研究・開発をしています。現場力とは、変化する状況に“時計の秒針の単位で”からだを呼応させる、一種の高度な集中力のことです。SeiZeeでは、例えば海の向こうで吹いた風が、読者の背中に届くよう、生きた記事配信を目指していきます。

ピックアップ記事

  1. トランプや安倍総理の言動や移民問題、ヘイトスピーチに沖縄の基地問題、今では森友学園の話題など、現在の…
  2. 「日本が好きだ。当たり前だ。日本に生まれて、日本で育った。だって僕は日本人なのだから。」…
  3. 類聚=同じ性質・種類のものを集める前回少し平安時代の話をしましたが、平安時代の古典には「○○類聚…
PAGE TOP