化粧品ってどうして安全なんだろう。[前編]

毎日使う口紅や歯磨き粉のために動物が実験されていることを知る人はどれだけいるだろうか。

たとえば、化粧品や日用品の安全性を確認するために、薬品を繰り返しラットの肌に塗って、薬品がどのように皮膚に刺激を与えるか、数日間経過をみる、といったことがなされてきた。

 

こうした実験は日本ではいまだに合法だが、欧州連合(EU)の28カ国を始め、世界各国では禁止され始めている。つい先月も、ロシアやアルゼンチンで化粧品のための動物実験を禁止する(以下、化粧品動物実験禁止法)内容の法案が提出され、現在審議中である。

え、動物実験なしに販売したら危険じゃないの? そう思う人もいるだろう。逆に、動物を利用しているなんてひどい、やめるべき! と思う人もいるかもしれない。

動物実験と聞いて、自分とは遠いことのように感じるかもしれないが、薬局はよく利用するだろう。その薬局で買えるもののほとんどすべてに動物実験がなされているかもしれないとしたら……案外近い問題なのかも、と思えてこないだろうか。

今回の記事は2本立てでこの問題について探ってみたい。前編では、化粧品動物実験禁止法の世界的な広がりと、その動向の理由について書いてみたいと思う。そして後編では、化粧品に限らない動物実験全体の正体に迫る。

 

2015年の8月末、2020年までに化粧品及び化粧品の原料のための動物実験をすべて禁止する、という法案がロシアで提出された。関連業者からは、技術上の支援がない限りロシアには動物実験から代替法に転換する準備は整っていないと不安の声もあるようだが、この法案を支持する20万の人々の署名が集まっていると海外紙が報じた。

そして、アルゼンチンは同様の効果を2年後にもたらす法案を提出している。また、違反者に対しては相当の罰金が想定されるという。

同様の法律はすでに、EU28カ国、イスラエル、インド、ニュージーランド、トルコで可決され、米国、ブラジル、ベトナム、台湾で類似法案が検討されている。中国と韓国も部分的な導入を図っている。

さて、この一連の動きは、どこから、そしてどうして始まったのだろうか。化粧品開発、製造のために動物実験を行うことを禁止する法律は、EUで1993年に提唱され、移行期間を経て2013年に施行された。そこには、人の美しさのために動物を犠牲にすることに疑問を持つ、消費者の声があった。

そしてこの法律の特徴は、国内で動物実験を行うことだけでなく、動物を利用した製品の販売をも禁止していることにある。つまり、2013年以降、日系企業も動物実験を行った化粧品をEUに輸出することができなくなったのである。化粧品市場の上位を占めるヨーロッパでこうした法律が通ったことで、各国もそれに追随して類似法を制定しているのである。

一方、日本ではまだこうした動きはみられない。化粧品のための動物実験の要請を明言する法律はないが、商品の安全性を証明する方法として動物実験の資料を採用してきた。今でも、禁止がなされない限りどの企業がどこでどのような動物実験をしているか把握することは困難である。

 

しかし化粧品動物実験禁止法を導入する世界の広がりには、EUの市場確保だけではなく、少なくとも以下の理由がありそうだ。

 

まず、動物を使わずとも化粧品の安全性を確かめられる代替法の開発がある。たとえば人口皮膚の培養、3Dプリント技術の応用、マイクロチップ型人工臓器……etc といった、夢のような技術の進歩により、動物を使わなくてもよい実験結果が得られるようになってきたという。

そしてこの代替法は、動物実験と比べると低コスト、短時間で高精度であるといわれることが多い。考えてみると、実験動物は生きものであるから、世話するのに手間も時間もかかるし、使い回しがそうそうきかない。

一方で、たとえば資生堂と花王が共同開発したh-CLAT (human cell line activation test) は、実験動物を用いる方法に比べて、サンプル量が20~30分の1、14分の1の時間で50分の1のコストしかかからないという。

 

また、人の安全性を考慮して動物実験を止めてほしいという声もあるようだ。日本でも、2013年の調査では88%の回答者が、動物実験が必要なほど危険な成分を化粧品に使わないでほしいと答えている。

事実、2013年に起こったカネボウの白班事件は、動物実験は危険な成分の使用許可を助長するのではないかという現行法の危うさを表したともいえる。

 

日本でも、EUの市場確保などを理由に、国内の化粧品業界でも変化が起きている。2013年の4月、資生堂が基本的に動物実験を廃止することを表明。マンダム、コーセー、日本メナード化粧品、ノエビアホールディングス、ポーラ・オルビスホールディングスなどの大手化粧品メーカーも動物実験を廃止。

国として何か対応する気配はまだないが、日本でも消費者の意識が十分高まりをみせれば、動物実験から代替法に舵を切る環境は整っている今、変化は起きうる。

日本でも、上記の廃止を表明した企業や動物実験をしない宣言をしている企業の製品があり、インターネットで調べるとすぐにリストが出てくる。

この機会に、消費者としてできることをする、つまり動物実験をしていない化粧品、生活用品を試してみるというのはいかがだろうか。

 

後編は、こちら

 

参考資料:

alterna[CSR]花王・カネボウも化粧品の動物実験廃止--資生堂などに追随 (2015/06/24) http://www.alterna.co.jp/15339

山崎佐季子他 (2013)「化粧品開発における動物実験に関する意識調査―日本における一般消費者の態度」

Shiseido News Release, 資生堂・花王、日化協 第46回技術賞(技術特別賞)を受賞, (2014.05)

RT, Animal Cruelty in Cosmetics Testing gets Duma Scrutiny, (August 24th, 2015), https://www.rt.com/politics/313203-anim

Georgina Caldwell, Argentinian Senator proposes bill to end animal testing for cosmetics; Brazil bill close to becoming law, (July 14, 2015),

https://globalcosmeticsnews.com/south-america/1562/argentinian-senator-proposes-bill-to-end-animal-testing-for-cosmetics-brazil-bill-close-to-becoming-lawal-cruelty-in-cosmetics-testing/

 

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動物法を研究しています。
普段ほとんどの人が疑問に思わない、けど考え始めたらちょっとおかしいかもしれない、人と動物との関係について書かせていただければと思います。
読んだあと動物問題を少し身近に感じて、何かを感じていただけましたら幸いです。

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