化粧品ってどうして安全なんだろう。[後編]

本記事は、前編につづき、考え始めると案外身近な動物実験について考えていきたい。(前編はこちら。)

 

人には、早わかりをしたがる性分があるという。

自分にはわからないことがあると不安になるから、たとえばニュースを見るにしても、わかりやすくて、ひとつの答えを提示してくれるような内容を聞くと、全部分かった気がして安心するのだという。

けれども、映像の撮り方にしても言葉の選び方にしても、伝える側の考えや想いはやはり入ってくるのであり、それを鵜呑みにするのは危ないともいえる。

 

早わかりすることによって、問題がごまかされ、救える命も救えない例がある。例えば動物実験はほんとうに必要なのか、早わかりせずに考えてみたい。

 

世界で科学実験に使われる動物の数は、すくなくとも約5800万匹にのぼるといわれている。この数字は、体の組織の提供のためだけに殺された動物や実験動物として繁殖されたが多過ぎて使われなかった動物などを含めると、1億を越えるとされる。

そのうち、日本は世界でアメリカに次いで2番目に多くの数の動物を使用しているというデータがある。(2005年データ)

といっても、日本では動物実験を法的拘束力がある形で規制する法律がなく、動物実験の登録や許可の義務もないため、政府も国内でどれだけの動物が、どのように利用されているかも把握できない状況にある。

よって、実際の実験動物の数は、上記の数を下回るかもしれないし、より多いかもしれない。

その日本では、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」において、「動物を科学上の利用供することは、生命科学の進展、医療技術等の開発のために必要不可欠なものである」としている。

一方、EUの「科学目的に飼養される動物の保護に関する2010年9月22日の欧州議会及び理事会指令2010/63/EU」は、最終目的が動物実験の完全廃止であることを明記。現在は完全廃止が難しくても、将来それを可能にするために少しずつ前に進めてゆこうというのだ。

この日本とEUの違いは何からくるのだろうか。それは、動物実験の”中身”をきちんとみようとする姿勢にあるのではないだろうか。

 

いやいや、動物実験は必要悪でしょ。

そう思う人がほとんどだろうと思う。実際、自分の家族や罪のない子どもが難病にかかっていたら、どんな方法を使ってでも治してあげたい、というものだろう。

 

しかし、単純な結論を出すのをもう少し待ってほしい。

というのも、もちろんヨーロッパの人々も、難病のこどもを放っておいて動物だけ守ろうといっているのではない。

問題は、動物の命や苦痛に見合う価値がある実験ばかりなのか? 本当に代わりの方法がないのか? といった疑問をもち、必要でない実験をなくしてゆく覚悟があるかどうかなのではなかろうか。

 

たとえば動物実験と一言でいっても、

 

新しい知見や治療技術などの開発、

化粧品や日用品などの新成分・新技術開発、

教育 (たとえば解剖実験や手技の練習など)、

人間や動物の行動特性・心理・知能を調べるための実験

 

といったように目的は様々。上記の「人の命か動物の命か」という究極の命題的な問いは、基本的にはこのうちの最初の実験にはあてはまるが、その他の分野はどうだろうか。

 

たとえば、前編で説明させていただいた化粧品動物実験は、「人の美容か動物の命/苦痛か」という問いになり、EUでは贅沢品のためにうさぎの目をつぶしラットの皮膚を破壊するのはもうやめたい、という消費者の声が強くなったのだといえる。現時点で安全性が確認されている成分、配合で化粧品をつくるので十分、という考え方もできるだろう。

また、教育分野においても、動物を利用しない代替法の方が倫理的かつ効果的だという研究報告がある。たとえばコンピューター・シミュレーション及び動物の形をしたモデル・マネキンなどの開発が進んでおり、獣医師を目指す学生はそれらを用いることによって繰り返し治療技術を磨くために練習を行うことができる。欧米では、生徒の意向に沿ってこうした代替法の導入をする獣医大学が多くあるという。つまり、よーく考えて調べてみると、「動物実験は必要悪」という早わかりでは見えない側面がぽろぽろ出てくるのである。

 

2013年、日本で唯一動物の福祉を規定する「動物の愛護及び管理に関する法律」が法改正された際、動物実験に関する規定はなにひとつ変わらなかった。研究者側と動物福祉団体側が正面衝突してしまい、議論が進まなかったという側面もあるが、市民の声がまだ収束しきっていないことも理由のひとつだろう。

今回の記事では、動物実験の中にも、今すぐにでも動物実験をやめられる分野と、当分は動物の利用が必要とみられがちな分野があることを書いた。それを加味して、次回の法改正では目的別の規制が検討されてもいいのかもしれない。

ゼロか100かではなく、議論が少しでも始まってゆけばいいなと思うのである。

 

参考資料:

環境省ウェブサイト

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/rule.html

打越綾子「動物実験をめぐる制度と課題の政策的位置」第7回実験動物ジョイントセミナー・イン九州 共同開催プログラム (2013)

なかのまきこ卒業論文要旨「教育現場に置ける動物実験代替法の導入について」

http://amanakuni.net/maki/soturon.html

European Commission, Communication from the Commission on the European Citizens’ Initiative “Stop Vivisection,” C(2015) 37773 final Brussels, (2015/06/03)

NEAVS-Humane Science is Superior Science, Alternatives In Education, (2004),

http://www.neavs.org/alternatives/in-education

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投稿者の過去記事

動物法を研究しています。
普段ほとんどの人が疑問に思わない、けど考え始めたらちょっとおかしいかもしれない、人と動物との関係について書かせていただければと思います。
読んだあと動物問題を少し身近に感じて、何かを感じていただけましたら幸いです。

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