イギリスの二賢人から学ぶ選挙!?

 

「あえて探しだして政治権力をまかせるべき人びとは、個人としてはそれをもっとも嫌う人びとであり、最適任者に統治という苦労を引きうける気をおこさせるための頼れる唯一の動機は、もっと悪い人間に統治されることへの恐怖だというのである。」

(『代議制統治論』、280項、岩波文庫、J=S=ミル、水田洋訳)。

 

功利主義で有名なジョン=ステュアート=ミル(1,806-1,873)の著作『代議制統治論』に上のような記述がある。書名の「代議制統治」から分かる通り、この著作において彼は、市民の中から代表を立てて運営する政治について本格的に論じた。

 

「あえて」は「政治権力をまかせるべき人びと」にかかっている。「あえて」―その言語的な意味を考えると「強いて」―であるから、ミルがそもそも政治権力を特定の人々に付与することに前向きではなかったことが推し量れる。さらに、その人々を「探しだ」さなければならないのだ。

 

このイギリス生まれのミルの没後100年程下ると、J・K・ローリング(1,965-)女史のいわずとしれた名著『ハリー・ポッター』の大賢者アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアが、こんなことを述べる。

 

“It is a curious thing, Harry, but perhaps those who are best suited to power are those who have never sought it. Those who, like you, have leadership thrust upon them, and take up the mantle because they must, and find to their own surprise that they wear it well” ―「興味深いことじゃが、ハリーよ、権力を持つのに最もふさわしい者は、それを一度も求めたことのないものなのじゃ。きみのように、やむなく指揮を執り、そうせねばならぬために権威の衣を着るものは、自らが驚くほど見事にその衣を着こなすのじゃ。」(アルバス・ダンブルドア、『ハリー・ポッターと死の秘宝』)。

 

ミルとダンブルドアの主張は、極めて似ていないだろうか。権力を持つべき人間は自ら望んだものではなく、やむにやまれずその力を寄託されたものだというのである。言うまでもなく、今日的な選挙制度は、他薦式立候補ではなく自薦式立候補である。つまり、「探し出された」人でも、「求めたことのない」人でもない。故に、この文脈に則って言えば、現代民主制において権力を持つのに最適な人が政治権力を有しているわけではない。

 

ところで、小学校・中学校・高等学校における学級委員のような自薦・他薦併用式の選挙は興味深い。みずから「求めたもの」と「探しだされた」人がいるのだ。

 

 

そういえば、大阪都構想という歴史的事業に勇敢にも取り組んだ橋下徹氏の著『まっとう勝負』の中にこんな記述がある。「政治家を志すっちゅうのは、権力欲、名誉欲の最高峰だよ。その後に、国民のため、お国のためがついてくる。自分の権力欲、名誉欲を達成する手段として、嫌々国民のため、お国のために奉仕しなければならないわけよ。」。確かに、橋下氏のこの記述には強い説得力がある。いわゆる既得権益とつながり易い政治家という職業につくことを欲する人が名誉欲や権力欲と連結するのは、半ば当然だろう。だからこそ、権力をもつべきは、それの獲得を目的とする人ではならないのだ。

 

実は、橋下氏の先述の文章のすこし後ろにこんな文章がある。それは「ウソをつけない奴は政治家と弁護士にはなれないよ!ウソつきは政治家と弁護士の始まりなのっ!」だ。なるほど、弁護士でありかつ政治家である橋下氏はいわば「ウソつき」なのだ。故に、「政治家を志す」理由が「権力欲、名誉欲」というのも「ウソ」にすぎないのであろう。

 

余談だが、あくまで私は橋下氏のこの記述が好きだ。正直、あまりに正直。それゆえに嫌いになれない。

 

さて、J=S=ミルは政治権力を持つべき人は「それをもっとも嫌う人びと」であるとした。いみじくも、ダンブルドアは権力をもつ最適任者を「それを一度ももとめたことのないもの」と似た様に論じている。このふたりの賢者から我々が学ぶべきことはなんだろうか。現代社会に生きる我々には、選挙権が付与されている。その選挙権(suffrage)をどのように行使すべきか、熟慮に熟慮を重ねる必要があろう。

 

先日、18歳から選挙における投票を可能にする法が成立した。20歳になっていなくても選挙と向き合わねばならない時が迫っている。

 

この記事で、「どの政党がいいのか、どのような政策がいいのか」という従来の視点に加えて新たな視座を提示できたらこの上なく嬉しい。

斉藤亮太【思想・哲学・宗教、政治、文化】

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私に「社会不適合者だ!」と言ってくる人がいますが、それならば社会が私に合わせればいい。え? 合わせられない? そんなに能力低い社会なら変えないとねぇ。
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