「キレイになりたい」から使うシャンプーの裏事情

2015年7月4日、第9回基礎法学総合シンポジウムが東京で開かれました。テーマは「動物と法」、
そして副題には「人間中心主義は越えられるのか」とあります。
「え? そもそも、人間中心でなにか悪いことがあるの?」
今回は、そんな疑問について考えてみようと思います。

 

動物保護活動の根底には、哲学的議論があった!

最近、動物保護活動が活発化しています。
これまでに一度は街中で動物保護のキャンペーンや募金活動を見かけた事がある、と言う方は大勢いるのではないでしょうか?
ただ、自分とは異世界の話……そう思われる方がほとんどかもしれません。
そもそもなんでそんな活動してるの? と思われる方もいるでしょう。

動物保護活動、とりわけ動物の権利運動は、ある倫理的課題に真っ正面から向き合った活動であるといえるかもしれません。

 

島津格教授(千葉大学名誉教授)は、シンポジウムで動物保護法の理由付けとして、2つの哲学的立場を指摘。
まず「二元主義(double standard)」によると、人間にはカント主義、動物には功利主義をとることになる。
つまり、
人間を単なる手段(例えば奴隷)として扱うことは許されず、
動物に関しては、人間の利益がある場合にのみ苦しめることが許容される、という理論です

その人間の利益は、どんな内容でもいいのでしょうか?

いいえ、動物の苦しみとのバランスを考える必要があります。

たとえば、苦痛を与える快楽を味わいたいから子猫の首を切る(こんな事件が東京で先日起きたようですね)といった行為は、認められません。
では「おいしいから」動物の命をいただく、
「キレイになりたいから」動物実験をした化粧品を使う。
これはバランス的にどうなのか……?
その答えは簡単には出ないでしょうが、人それぞれ、という言葉では片付けられないくらい動物が苦しみを味わっている場合、社会で議論して考えていく必要があるのではないでしょうか。

 

次に、二元主義に対して1970年代に提唱され始めたのが「一元論」です。
これは、人間も動物として、すべての動物に同じ倫理的基準を適用すべきだとする立場で、動物の権利の考え方につながります。
人間だけ特別だとするのは人種差別に並んで「種差別」に過ぎない、とピーターシンガーは言います。
つまり、苦痛を感じる(suffering)能力はありとあらゆる動物が持っており、その中でもチンパンジーなどの霊長類、ゾウ、イルカなどには高度なコミュニケーション能力や認知能力などが認められる。
実際、そうした能力を理由にアメリカのニューヨーク州ではチンパンジーに法的人格を認めるよう訴訟が起こされていて、現在審議中であるとのこと。

人と動物の大きな違いは「言葉を操るかどうか」だとお考えかもしれません。
しかし、言葉が話せない障害を生まれもった新生児(人間)を守って、言葉は話せないけれど、人間の幼児程度の知能を持つブタ(動物)は実験や食用に利用してよいという言い分は、差別でしかない。
とピーターシンガーは続けます。こうした主張を論破することは、案外難しいのです。

高度化した社会では動物の利用が広く、そして無情なものになっています。
その中で、科学の進歩に伴い人間以外の動物と人間の差はあまりないということがわかってきました。

そんな変化を受けて、人権は変わらず絶対的なものだとしつつも、動物もそれに少しずつ近づける。
そういった考え方の延長線上に動物の権利運動があり、日本でもみられるようになった動物保護運動があるという捉え方もできます。

 

動物福祉の世界的広がり

「え、そんなこと言い出したら、動物実験はできなくなるし、お肉も食べられなくなっちゃうんじゃ?」
と……そんな声が聞こえてきそうですが、現実社会では二元主義に基礎をおくともいえる「動物福祉の考え方が世界で広まっています。
佐藤衆介教授によると、動物福祉とは、「個体の現実の生活が苦痛や不快のない、喜びに満ちた状態」
たとえばEUの動物実験規則は、将来的に動物実験を完全に廃止して、代替法(人の細胞を利用した実験など)に変えてゆくと明記しています。
しかし代替法の開発がまだ不十分な現在では、動物を利用することは認めるけれど、その際に伴う不必要な苦痛は少なくしていく、という内容になっています。
日本でも、動物を食べ、実験し、駆除し、展示しています。
今回の東京で開かれたシンポジウムでは、家畜や実験動物、野生動物、動物裁判の歴史、動物保護団体の役割などが議論されました。
動物との付き合い方をどうしていくか、という課題が日本でも大まじめに議論され始めたと言えるでしょう。
この課題に対して、日本はどう答えていくのでしょうか。

その示唆を得るために、次回は人間中心主義を見直す方向にあるドイツと、この問いに対する日本の現状について書きたいと思います。

 

参考文献:

伊勢田哲治『動物からの倫理学入門』名古屋大学出版会 (2008)

島津格「動物の保護を考える」(at Science Council of Japan)用資料 実験動物の法的・倫理的位置と実験目的によるヒト由来物の利用 (2015)

ピーターシンガー(戸田清訳)『動物の解放』人文書院 (2011)

佐藤衆介『アニマルウェルフェア―動物の幸せについての科学と倫理』東京大学出版会 (2005)

 

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投稿者の過去記事

動物法を研究しています。
普段ほとんどの人が疑問に思わない、けど考え始めたらちょっとおかしいかもしれない、人と動物との関係について書かせていただければと思います。
読んだあと動物問題を少し身近に感じて、何かを感じていただけましたら幸いです。

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