「忙しくて当たり前」が高橋まつりさんの命を奪った。

マスメディアは一度鏡を見るべきだ!
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マスメディアは行政、司法、立法に並ぶ「第四の権力」とも呼ばれており、彼らの問題認識が国民全体の認識になることが多い。それほどに大きな影響力を有しています。

ところが彼らは労働問題に関してまるで説得力を有していません。なぜならマスメディアは自らが長年抱えている労働問題から目を背け続けているからです。

 

最近、私はとある雑誌編集者の講義を受けました。そこで私は耳を疑うような発言を聞きました。

「雑誌編集者ともなれば、睡眠3時間は当たり前、ほとんど家にも帰れませんよ(笑)」

これだけでも驚きでしたが、この発言について意見を求めた友人からはさらに衝撃の答えが返ってきました。

「いや、マスコミ業界ならこれくらい普通でしょ(笑)」

いったい何が普通なのか私にはさっぱりわかりませんでした。しかし雑誌に限らず、テレビでも新聞でも、どのマスメディアの業種でも共通して強調されるワードは「とてつもなく忙しい」でした。

マスメディアの大きな役割は問題提起にあるはずです。ところが、労働問題に関しては、マスメディア自身がその問題を抱えているにもかかわらず、まるで他人事のように報道がなされていることに違和感を覚えずにはいられません。

そしてついにその問題が最悪の形で露呈したのが今回の電通過労死事件です。

この過労死自殺はメディアが自らの問題を見て見ぬふりをしてきたツケが回ってきたともいうべき事件です。すでに過労死自殺の前例があったにもかかわらず、問題の本質から目を背けてきた代償は大きい。

しかし、これはもはや電通、ひいてはマスメディアだけの問題ではなくなってきています。ネット上では電通の体制批判に躍起であるが、普段は生活保護受給者などに対して風当たりの強い傾向にあるネット社会はその矛盾に気づかないのでしょうか?おそらく気づかないでしょう。しかもそれはネット上だけの風潮ではない。上述の雑誌編集者の残業自慢や私の友人の発言からも日本に巣くっている病理が伺えます。

 

長時間労働を褒めたたえてはいけない!
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その病理とは「奴隷の鎖自慢」です。まさに奴隷が自分の境遇の悪さを自慢げに話す風潮が日本に出来上がっています。長時間働き続けることを「偉い」とする風潮がまさにそれです。SNSを見てみても「○○時間しか寝てない(笑)」、「○○連勤だ(笑)」といったつぶやきが面白おかしく投稿されています。その風潮が日本人の労働に対する認識を歪ませているのです。私は先ほど雑誌編集者の労働時間に驚いたことを書きましたが、これを見て「なにを甘えたことを」と感じた人はすでに洗脳されていると言っていいでしょう。この職業は忙しくて当たり前なんていう考えは一種の職業差別に繋がるところもあると考えます。
第一に、労働基準法第三十二条にはこんな規定があります。

第三十二条  使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

 

このように労働時間に対して明確な制限を設けているのにも関わらず、第四権力たるマスメディアが堂々と破っていいはずがありません。「でも、長時間働けるのは確かにすごいんじゃ?」と思う人も多いでしょう。しかし、個人的にねぎらうのならまだしも、それが凄いことなんだとする風潮は長時間労働の過剰な神格化を招くことになります。長時間労働が命を脅かす危険性があると熟知され始めた今、それらを称賛する行為はそれに感化された人間を死に追いやる行為でもあります。周りの空気に流されやすい日本人は特に問題でしょう。

さらに、国がこの問題を真剣に考えないのであれば、過労によって命を絶った人は国に殺されたようなものです。何よりも好き好んで長時間労働をしたがる人は稀なのですから、長時間労働をさせられている人は国や社会の不備により強制的に働かされているに等しいのです。

国がやるべきことは労働基準法違反の厳罰化です。というのも経営者が平気で労働法を破る背景には違反金が30万程度しかなく、労働法を守らないほうが経済的なメリットがあるからです。さらに労働者側も労働基準法に対する知識を身につけ、その違反行為に厳格になることも必要です。「こんなに忙しいのはおかしい」とちょっとでも感じたらすぐさま抗議することと、抗議を行う人を称賛する風潮が何よりも重要です。長時間の労働よりも、労働環境そのものを改善しようと努める人の方がはるかに称賛に値するのです。

 

国際競争が労働を苛烈化させている!

これらの問題の解決策は日本という国が経済力競争から降りるしかないでしょう。

というのも、今日の労働問題を根本的に放置し続けた大元はやはり政府にあり、なぜ政府がこの問題に関して根本的解決を図らないのかというと国家間での競争を意識しているからです。しかも、その競争はGDPという不毛な数字の比べあいです。国としての役割は国民の幸福と安全を保障することですが、現代社会では日本のみならず世界中で幸福=経済成長だとされる傾向にあります。先進国はこのまやかしから一刻も早く目を覚まし、人間の幸福の在り方について考え直さなければなりません。そこに至る手助けとなるのがマスメディアです。マスメディアが労働に対する新たな価値観を提供すれば、国民の認識は変わり、国民自らが政府に要求するようになる。民主主義国家を動かすには何よりも国民の声が必要です。

 

労働の犠牲者をこれ以上増やさないためにもベーシックインカムの実現を!

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ここでマスコミを目指す者の端くれとして、私が提案するのはベーシックインカムである。

政府がすべての国民に対して最低限の生活ができる程度の現金を無条件で一律に支給するという制度です。この制度の下でなら、職を失ったとしても生活に困るということはなく、就職するにしても、転職するにしても、余裕をもって準備をすることができます。簡単に職を辞めることができる、または転職できるという環境が悪質な労働環境を放置する企業に対しての対抗策になるでしょう。

スイスでは実際にベーシックインカムを導入するかどうかについて国民投票が実施されました。しかし、残念ながら反対多数(約78%)で否決されてしまいました。この制度が安定したセーフティネットであるということは明白であるにもかかわらず、多くの国で導入が足踏みしているのは主に財源不足が原因です。ベーシックインカムを実現した場合、年金や生活保護といったその他の社会保障を縮小せざるを得ないと国は説明しています。さらにスイスではベーシックインカムによって労働に対する意欲が失われるといった経済界の反対もありました。

しかし憲法二十五条にはこんな記載があります。

 

第二十五条

すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 

 

そもそも、ベーシックインカムを導入するのに他の社会保障を切り捨てることを前提にしているのが間違っているのです。ベーシックインカムと同じくらい年金や生活保護も上記の健康的で文化的な最低限度の生活に必要不可欠なものです。そして国は全国民が文化的な生活を送れるように最善を尽くさねばならないのです。
ならば、社会保障にかかる予算は、軍事費やオリンピックの予算などよりも優先されなければならないということは明白でしょう。現在政府は財源不足を理由に年金を含む社会保障の切り詰めに躍起ですが、それは優先順位がおかしいのです。2016年度の予算案の構成では社会保障費が全体のおよそ三分の一を占めていますが、それこそ二分の一以上を占めていてもおかしくないのです。
軍事費、経済協力費のような最低限の生活に直接関わらない項目は社会保障費よりも優先されるべきことでしょうか?マスメディアもまた、膨れ上がった社会保障費が問題なんだと叫んでいますが、日本の子供の相対貧困率(基準以下の生活水準の状態)は15.7%であり、ホームレスの数も5000人以上存在するという状況で本当に社会保障が十分と言えるでしょうか?本来は一人でも困窮する人があってはならないはずです。そのことに疑問を感じない人が多いのは、格差社会が当たり前になりすぎて感覚が麻痺してしまっているのです。労働に対する意欲の減退という発想が出てくるのもその証拠です。一人一人の生活の価値が労働の価値と比較され、矮小化されてしまっているのです。

 

最後に

日本の労働者を苦しめているのは、制度の不備や経営者側の怠慢というのももちろんありますが、労働者側の仕事に対する意識もまた問題です。

「会社に迷惑をかけちゃいけない…」

「倍率の高い職業だから、忙しくても我慢しなきゃ…」

自分がこんなに苦しいのに我慢しているんだから、他人が過労だなんて甘えたこと言うのは許さない」

こういった思い込みが自分たちの首を締めているのです。

労働基準法が守られなくても仕方がない仕事なんて言うものは存在しないと思います。

労働は行って当たり前のものではない。私たちは労働をするために生きているのではないのですから。
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田子将大

田子将大

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女性が子育てをするのが「当たり前」? 仕事が忙しいのが「当たり前」?? 国と国で分け隔てるのが「当たり前」??? そんな「当たり前」に「待った!」をかける。そんなメディアの使命を帯びて日々戦う明大生です!

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