「強行採決」という言葉に現れる違和感と、この日にホルムズ海峡の話が入ってくる皮肉

 7月15日、安保法案可決@衆議院特別委員会

もう皆さん、Facebookでも新聞でも盛り上がりまくっていると思いますので、簡単にお知らせしますが、集団的自衛権の行使を可能にすることなどを盛り込んだ安全保障関連法案は、衆議院の特別委員会で採決が行われ、自民・公明両党の賛成で可決されました。与党側は、16日、法案を衆議院本会議で可決して参議院に送る方針で、野党側は強く反発しています。

ちなみに、皆さんはこの「衆議院の特別委員会で可決、参議院へ送付」の意味は大丈夫ですか?念のため、図を見ながら簡単に説明します。

出典: http://www.sangiin.go.jp/japanese/taiken/bochou/pdf/children/2705-14-15.pdf

出典:
http://www.sangiin.go.jp/japanese/taiken/bochou/pdf/children/2705-14-15.pdf

 

法律案というのは、御存知の通り、内閣か国会議員が作って国会に提出します。提出された法案について、いきなり全員の国会議員で話し合うなんて非効率的なことはしません。国会では1年間に100以上の法律がつくられていて、いちいち衆議院480人、参議院242人の国会議員がいっせいに集まって100本の法律の中身を討論していたら、収拾がつかないし、時間がいくらあっても足りません。

というわけで、国会では国会議員全員で話し合う前に、少人数の国会議員が所属する「委員会」というところで詳しい話し合いを行います。これには常任委員会と特別委員会というのがあって、この安保法案は「衆院平和安全法制特別委員会」という委員会で議論がされていました。皆さんが日頃テレビや新聞で見ていた首相や大臣vs野党の質疑はこの特別委員会での様子です。

そして、今日15日、衆議院の特別委員会で採決が行われ、自・公の賛成で可決されました。

この写真にある通り、明日16日には衆議院本会議で採決がされ、可決されました後に、法案は参議院に送られ、参議院の特別委員会で議論が始まります。(ちなみに、日本は委員会主義とも言われるほど、委員会での議論と採決が重視されていて、本会議での採決で否決に回るなんていうことはほとんどありません。)

 

 「強行採決」なのかどうか

さて、各メディアでも報道されている通り、この採決は「強行採決」ではないかということが批判されています。

もっとも、メディアの報道の仕方は「強行採決」という言葉を使っているものとそうでないものにわかれていますよね。次の写真を見て下さい。Google Newsからです。

出典:Google News

読売・産経・NHK・日経:「安保法案可決」という言い方

朝日・毎日:「強行採決」

与党側は「もう既に100時間以上も審議し、論点は出尽くした。議論は十分だ」とし、野党側は「まだまだ議論しなければならないことができていない。数の暴力だ」と反論しています。

基本的に、民主主義というのは数の暴力を正当化した統治システムですので、最後は多数決されてしまうとどうしようもありません。

それが「妥当なやり方かどうか」は多分に疑問ですが、手続が合法かどうかという視点では合法なわけです。こういうときに「彼らを選挙で選んだ(選ぶことを人任せにした)のは私たち国民だ」という感覚が湧いてきます(それはまるで鼻が詰まったときに「息してたんだ僕」という感覚に似ているのかもしれません)。

 

「強行採決される」ことがわかってしまう日本

今回、「7月14~15日あたりで(強行)採決だろうな、となるといよいよ参議院か」ということがメディアでは先週以前から報道されていました。皆さんはもう当たり前すぎて疑問にも思われないかもしれませんが、なぜメディアは「強行採決が可決されて参議院だな」と分かるのでしょうか。

それは、自民党と公明党で過半数を取っている以上、党議拘束(党に所属する議員はその党の立場で賛否を意思表示しなければ公認剥奪などのペナルティが課せられるため、党に従います)があるために、採決をされてしまえば「必ず」可決なのです。

「民主主義は多数決が勝つんだから、議席で多数取ってる以上、当たり前だろ?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、これは誤りです。国会議員一人ひとりに自由な意思表示が確保されていれば、可決されるかどうかなんて事前に分かるはずがありません。そうではなく、政党の立場と異なる立場を採るはずがないということがわかっている日本の政党政治のもとでは「議席多数を取っている側が勝って当たり前」なんです。

少し他国の例を出してみましょう。

たとえばアメリカでは、オバマ大統領が提出したTPP関連法案は、自分の所属政党である民主党議員の数多くが反対派に回り、しかし二大政党のもう一方の共和党の多くの議員が賛成派に回っています。

え、なになに、日本とアメリカは統治システムが違うから、比べるなだって?

だったら、同じ議院内閣制のイギリスを見てみましょうか。

イギリスは日本と同じ議院内閣制のもと、政党政治が行われ、普段の議会運営では党議拘束があります。つまり、日本と同じく、ちゃんと党の立場で賛否を表明しなければなりません。しかし、「自由投票」というシステムがあります。これは、国会議員が所属政党の方針に関係なく、自分の意志に基づいて行う投票であって、伝統的に国会議員の「良心」に基づいた判断が迫られるものについて、これが採用されます。そして、直近では、キツネ狩りの禁止を解禁するか否かの法案について、キャメロン首相は自由投票に委ねるとしました。保守党も労働党も自分たちの意見で投票することができるのです。

今回の安保法案、絶対に党派を超えた意見の対立があるはずで、自民党の中にも疑問に思っている方がいるに決まっているし、逆に野党の中にも賛成だと思っている方がいらっしゃるはずです。採決前に結果が分かる今の統治システムを「民主主義」と呼ぶのは、それこそ「全くあたらない」と思います。

 

イランの核軍縮合意…ホルムズ海峡の危機は下がる

さて、そんななかで奇しくも同日、国際情勢として非常にホッとした朗報が入りました。

イランの核開発問題の解決を目指して協議を続けてきた欧米など関係6か国とイランが最終合意に達したことを正式に発表したのです。今回の歴史的な合意でイランの核開発は大幅に制限されることになり、核の拡散を防ぐ大きな一歩となります。

そして、今回の合意を受けて、国連の安全保障理事会でも近く合意を支持する決議が採択され、国連でイランに対する制裁の解除・無効処理に向けたプロセスが開始されます。

当然のことながら、この合意によって、原油の価格低下や安定調達につながるとの見方が広がり、宮沢洋一経産相も期待感を示しています。

イランはかつて、欧米の経済制裁に反発してホルムズ海峡の「封鎖」を示唆していました。今国会で一躍有名になった例の海峡です。安保法案の一つの目的として、ホルムズ海峡が機雷で封鎖される場合の対処があがっていましたよね。

しかし、エネルギーの専門家らは、「本件合意でイランがホルムズ海峡を封鎖する可能性はこれまで以上に低くなった」と指摘しています。

 

ここから先の予定

さて、朝日新聞が今後の予定を出していましたので、こちらでも共有させていただきます。

なにもこれで終わったわけではなく、まだまだ両院のうちの1つを通過するというだけです。私たちの代表が何をなそうとしているのかを監視する期間が残り2ヶ月あります。

ただただ漫然と意味もわからないまま過ごすよりも、私たちが付託した権力がどう使われるのかを把握していきましょう。賛成でも反対でも、知らないより知っていた方がいいことは確実です。

 

■想定される主な政治日程

<今週中>

安保関連法案の衆院通過、参院送付

<7月下旬以降>

安保関連法案の参院審議入り

<8月15日 終戦の日>

この日までに安倍首相が戦後70年の談話発表

<9月中>

政府与党、安保関連法案成立めざす

<9月27日>

延長国会の会期末

<9月30日>

自民党・安倍総裁(首相)の任期満了

<9月下旬>

国連総会

 

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出典

写真①:日本経済新聞社「安保法案、衆院特別委で可決 与党単独に反発」

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS15H0F_V10C15A7MM0000/

写真②:参議院「法律ができるまでの流れは どうなっているんだろう?」

http://www.sangiin.go.jp/japanese/taiken/bochou/pdf/children/2705-14-15.pdf

イランの合意について:NHKニュース「イラン核協議 最終合意と正式発表」

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150714/k10010150951000.html

今後の予定:朝日新聞「安保法案、衆院委で可決 与党が採決強行」

http://www.asahi.com/articles/ASH7G7QXDH7GUTFK01P.html

 

徐東輝

徐東輝【政治】

投稿者の過去記事

若者と政治をつなげるivote関西代表。ダボス会議グロバールシェイパー。京都大学法科大学院生として学ぶ傍ら、政治教育・メディアのあり方を探っています。日韓×憲法の視点で執筆中です。

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