【インタビュー】競馬場へ、馬ではなくヒトを見に行ってみた。

20161023京都。
今日この場所で熱い戦いが繰り広げられるのはご存知だろうか?
クラシック三冠の最終戦であり「最も強い馬が勝つ」と言われる大一番、そう「菊花賞」である。

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全国の競馬ファンの注目を集めるこのレース

きっとここに集まる人たちから、何かドラマを得られるに違いない

そう考え、我々SeiZee編集部京都競馬場に乗り込み、インタビューを敢行した。

*****

時刻は12時前。
1540分のレース開始を前に、少し浮足立つ競馬場で、我々はインタビューに応じてくれそうな人をひたすらに探していた。

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しかし簡単に声をかけることができない。

そこにいる人たちはみなスポーツ新聞とにらめっこし、レースの結果を予想している。
地面にレジャーシートを引き、自らの陣地を作っている人もいる。
彼らにとっては真剣勝負そのものなのだ。
もちろんある程度は覚悟していたのだが、実際にこのような光景を目の当たりにすると、まずは立ちすくむしかなかった。

だが、そのような中でひとり、どこか寂しそうな表情で、レース前の競馬場を見つめる男性がいた。

『この人しかいない!』

我々はそう考え、この男性に直撃した。

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Dさん:40代男性、和歌山県出身 本命:サトノダイヤモンド

Dさんは、少し驚きながらもこちらに目を向け、取材を受けてくれた。

ーー今日はお一人でいらしたんですか?

いえ、家族と来ていますね。嫁と娘の3人です。

ーー娘さんはおいくつなんですか?

娘は高校生ですよ。娘は競馬には興味がないんですけどね。レジャー感覚で着いてきてくれてるんじゃないですかね。年頃の女の子がついてきてくれるんだからありがたいですね。

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Dさん一家の仲睦まじい姿が目に浮かぶ。が、どうして寂しげなのだろう。娘さんのことを深く聞いてみようとしたが、笑ってまあ普通ですよと繰り返す。

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ーー初めて競馬場に来たきっかけは何ですか?

最初は会社の上司に連れてこられたんですよ。それがだんだんはまるようになって。気が付けば一人で何度も足を運ぶようになりました。今ではすっかり競馬が趣味になっています。

ーーやっぱり一番楽しいのは競馬をしている時ですか?

競馬で当たった時は本当に楽しいですね。今までで最高20万くらい当たったことがありましたが、やっぱり競馬は当ててなんぼです。

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彼にとって競馬は「いい夢を見られる場所」なのだ。勝てば、勝ったら…何に使おう、何しよう。変わりのない日々の中でこれほど大きい夢を与えてくれる場はない。

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ーー最後に、Dさんにとっての幸せってなんですか?

うーん、競馬をしている時ですかね。そんなに「幸せ」とか普段感じませんけど。

ーーありがとうございました。

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競馬が趣味、と言いながら、どこか寂しそうな表情をしていたDさん。
日々の仕事を淡々とこなすサラリーマンだというが、彼にとっては競馬は「非現実的な夢」を持てる唯一の場所なのだろう。

一緒に来てくれるとはいうものの、別行動をしている家族。思春期の娘さん。

どこか寂しそうな表情の意味はそこに隠されていそうだった。

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さて、一人目のインタビューで少し自信をつけた編集部員。
引き続きインタビューをできそうな人を探す。大学生、おばあさんおじいさん、家族連れ…様々な人がいる競馬場はまさに世代を超えた娯楽場所になっていた。

京都競馬場の中をあちこち廻っていると、馬の像の正面に立ちながら、物思いにふける男性を発見した。

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少し話しかけにくい雰囲気をまとったおじさんだったが、雰囲気が周りの人と明らかに違う。

この人に話を聞いてみたいと直感的に思った私たちは、勇気をふりしぼり、声をかけてみることにした。

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Tさん:60代男性、岐阜県出身 本命:ディーマジェスティ―

Tさんは少し怪訝な表情をしながらも、事情を説明すると案外すんなり話を聞いてくれた。

ーー競馬のどんなところが好きですか?

競馬は予想することが好きなんだよね。競馬って結局勝てないようになっているんですよ。だから勝負は二の次。新聞とか見ながら予想している時が一番楽しいね。

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彼によると、競馬は勝てないようにできているらしい。そのため、彼にとっては「予想」する過程が一番楽しいのだとか。

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ーー競馬でうまくいかななかったとき、落ち込んだりしませんか?

競馬は自己責任だからね。うまくいかなくて悔しくても、誰にも迷惑をかけることはない。だから落ち込む、なんてことはないね。ああ仕方なかったな、って。
それに比べて、会社では違う。会社で失敗をしたら、他人に迷惑をかけることになるからね。競馬は自分が損をするだけ。だから普段会社で感じるようなストレスを感じないんだよ。

ーー確かにそうですね。今の時代は、そうやって会社で追い詰められてしまう人が多いように思います。

そうそう。最近、会社で追い詰められて自殺してしまう人がいるでしょ?自殺する人は責任感が強すぎるんだよ。でも社会で生きていくには適度に力を抜くことも大事。自分の手に負えないなら、「やーめた」ってしてしまえばいい。そうやって逃げることで、自分を守る。だから、自分のことを追い詰めて、死にたいと考えている人がいるなら、競馬場に来たらいいよ。力の抜き方がわかるから。

そうしたら自殺するまで自分を追い込んでしまう人はいなくなると思う。

ーーTさんは悩んだりしないんですか?

僕もこんな歳だし、若い時に抱えてた悩み、例えば出世したいとか、そういった悩みはなくなったね。欲がもうないから、ああなりたいこうなりたいってやきもきすることがない。
でもその代わり、年相応の悩みが増えてきたかなあ。親の介護であったりとか、どうにもならない周囲の環境への悩みなんだけど、いちいち考えてても仕方ないから、今はただやれることをやっているって感じかな。

ーー最後に聞きたいんですが、そんなTさんにとっての幸せってなんですか?

僕ね、競馬のほかに散歩が趣味で。それで歳も歳だし、散歩しているときはすごく不安になるんだよ。この山道を登り切れるかなとか、無事に家まで戻ってこれるかなとか。でも歩ききった時に、そういった不安から解消されて、案外なんとかなるんだと思ったときに、すごく満足感を覚える。これって達成感じゃなく、安堵に近いかな。そして、その満足感に浸れるとき、僕は幸せを感じるね。

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わざわざ岐阜から京都に来るのにも、理由があるのだろう。
彼にとっては、岐阜から京都に来て、岐阜まで帰る、その過程すべてが大切で、安堵に近い感情を生み出す大事なものなのだ。

最後に一言、「頑張ってね」と私たちに伝え、去っていったTさん。
強面で、気難しそうなおじさんという印象から一転、話してみるとすごく優しい方だった。
お話の一言一言が、人生経験に裏付けされたものであり、Tさんが人生で経験した幸福や苦悩などが自然に想起させられ、聞き終わった後少しの間は余韻が残った。

最近増えている、「他者への責任からの自殺」。でも、彼からしたら、ある程度の責任を負い、追いきれなくなったら逃げる選択肢も持つこと。それこそが自分への責任なのだという。確かに私たちは普段思いつめすぎているのかもしれない。

ただ、自分がやれる範囲でやれることをやること、それだけで十分だと思えるのはいくつになってからだろう。

私たちは、Tさんが、現代の聖とも思え、畏敬の念を禁じえなかった。

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二人のインタビューを終え、満足げになる編集部員。しかしまだインタビューは終わらない。
今、競馬は女性の間でもブームになっており、専用のスペース(UMAJO)が設けられているほどだ。

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ぜひとも女性ファンにも話を聞いてみたい。

そこで、次のターゲットを女性に絞り、探し始める。
すると、私たちの前を早歩きで通り過ぎ、過去の名馬の展示パネルに向かう一人の女性がいた。

これは面白い話が聞けそうだ。

私たちは走って彼女を追いかけ、直撃取材を行った。

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Tさん:40代女性、名古屋出身 本命:エアスピネル

私たちが走りよると、Tさんは少し後ずさった。しかし、目的を伝えると、とたんに穏やかな表情になり、話を聞いてくれた。

ーー競馬のどんなところが好きですか?

競馬は、馬を育てる感覚が好きです。母性なのか、ちょっとダメな馬を好きになってしまうんですよ()。いつも2番手3番手の馬を応援してしまいます。そういう馬が勝ったりするとすごく嬉しいです。

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ここで失礼を承知で聞いてみた。

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ーーもしかして、男性もちょっとダメな男の人が好きだったりします?

そうなんですよ!!もう、そうなんですよねえ。なんでなんでしょうねえ。(苦笑)

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女の勘が当たってしまった。きっとそういう人たちを励ましていると、自分も一緒に頑張ろうと思えるのだろう。すごくよくわかる。

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ーーなんで競馬にハマったんですか?

最初はウオッカという馬を応援することから始まりました。そのうちウオッカは引退するんですが、ウオッカの子供や孫も活躍して、それを見続けてもうはや10年ですよ。笑
あとは、ジョッキーの福永さん目当てなのもあります。イケメンなんで。笑
そんなこんなで馬に騎手に夢中になっているうちに気づけば競馬にすっかりハマってしまいました。今ではこうして大きい試合は名古屋から遠征してしまうほどです。こんなはずじゃなかったんですけどね。笑

ーーなんかアイドルの追っかけみたいなもんですね。笑

そんなかんじですよね。笑 

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こんなはずじゃなかった、といいながらも、どこか満足げなTさん。競馬を作りだす、馬、騎手さん、そのどちらもに相当な愛を持っているのが伝わってくる。そしてその夢中になれる競馬は、彼女にとっての人生の癒しなのだろう。
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ーー最後に、Tさんにとっての幸せは何ですか?

特に困っていることも幸せに思うこともないですね。でも毎日がなんとなく楽しいんで、それでいいかなって思ってます。

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Tさんはそういうと、どこか寂し気に、でも吹っ切れたように、にっこりと笑った。

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彼女にとって、馬は自分を夢中にさせてくれるアイドルのような存在だ。そして競馬場は、その馬に唯一会いに行ける場所であり、彼女自身が元気をもらえる場所。
馬を応援することで、自分をも鼓舞するのだろう。

人生は、夢中になれるものがあると、豊かだ。

「幸せ」なんてたいそうなものはない。でもこの当たり前の日々がただなんとなく楽しい。
これは、少し寂しいようで真理であり、多くの人たちにとっての本音のような気がした。

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競馬場にいる方々へのインタビューはいかがだっただろう。

競馬を単なる「賭け事」だと思うと、そのイメージは「怖い」「深入りしたくない」そのようになるだろう。
ただ、競馬は一種のエンターテイメントであり、単なる「賭け事」ではない。

競馬には夢が詰まっている。

賭けが当たった先の夢を見る人、自分の応援する馬が勝つことを夢見る人。

多くの人にとって、人生は夢あふれるものではない。

実際の生活があり、生きなければならない。困窮はしていなくても、働かなければ生きていけない。

その中で、夢をもって仕事をできる人などそういない。

でも、夢という拠り所は人生にとって必要だ。

だから多くの人は、自分に見切りをつけて、自分じゃない何かに、夢を託す。

そうやって夢を託す人がたくさんいるから、競馬場は楽しくておもしろい。
でも少し、
切ない。

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周りを見渡してみると。たくさんの人がいる。その風景の一部である「大衆」は一人一人の人間の集まりだ。関係ないように思える人それぞれに、幸せがあり、悩みがある。

普段私たちは、そんなこと気にも留めない。でも、それを知らないままってとても勿体ないことだと思う。

だって知れば面白いから。

色んな人の価値観に触れるたび、世界は広がる。

社会に目を向ける、なんて大それたことじゃなくていい。その隣にいる人に思いを馳せてみる。ただそれだけで、社会はグッと近くなる。

社会にあふれる問題を、他人事にしないために。その想像力が、誰かを救うかもしれない。

このインタビューが、あなたと社会をつなぐきっかけになれば幸いです。

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最後になりますが、インタビューに協力していただいたみなさん、本当にありがとうございました。

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seizee編集部

seizee編集部

投稿者の過去記事

当メディア『SeiZee』の編集部です。
「読んだらちょっと、考えちゃう」をテーマに記事発信しています。

昨年末から、モスク、競馬場などへのインタビューに力を入れています。

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