「感動ポルノ」を無くすことは逆に障害者を追い込む?−障害者週間によせて

12月3日から9日までの一週間は、障害者基本法に定められた「障害者週間」です。

同法では、すべての障害者に対し、「個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する」こと、「社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられる」ことが宣言され、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」と定められていますが、未だこれらの規定とはかけ離れた現実があります。社会全体として、今後も障害者差別の解消に向けて努力することが求められています。
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障害者は嫌がる「感動ポルノ」

さて、障害といえば、今年はあるテレビ番組が大きな話題となりました。例年8月下旬に放送されている「24時間テレビ」の裏番組としてNHKで放映された障害者情報バラエティー「バリバラ」の、「検証!『障害者×感動』の方程式」特集です。

24時間テレビといえば、毎年障害者や難病患者が様々な困難を乗り越えていく「感動的」な企画を放送することで知られていますが、「バリバラ」では、メディアが流す「障害者×感動」という障害者像に疑問を呈しました。この方程式について、同番組は「感動ポルノ」と呼称しました。

この言葉は、2012年にジャーナリストで自身も障害者の故ステラ・ヤング氏がWebメディア上の記事「We’re not here for your inspiration」(和訳:「私たちはあなたの感動のために居るんじゃない」)で初めて用いた言葉で、障害者が障害者であるだけで、あるいはそれを含みにして「感動をもらった」と言われている状況を表しています。こうした「感動ポルノ」的な番組に、障害者の実に9割が好ましい感情を持っていないと言われています。

24時間テレビをはじめとして、多くのメディアが障害者について、「感動ポルノ」的な報道を繰り返しています。「バリバラ」は、この現状に疑問を投げかけたとして注目を浴びました。非常に多くの当事者の方々が嫌悪感を覚えているというこの「感動ポルノ」ですが、これが生み出した障害者像は既に広く受け入れられています。
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「感動ポルノ」がもたらしたもの

日本ファンドレイジング協会『寄付白書2013』によると、2012年の個人寄附総額は6,931億円に達したとされていますが、「保健・医療・福祉」分野への寄付はわずか1.9%、額にして約132億円です。対して同年の24時間テレビへの寄付は約12億円、全体の一割に迫るほどの額になっています。これほどの集金がすべて「感動ポルノ」があったためだと断言はしませんが、苦労を乗り越える障害者らの姿を見て「感動」し、「同情」して募金をするという人も相当数いるでしょう。

繰り返しになりますが、「感動ポルノ」を流しているのは24時間テレビだけではありません。多くのメディアが彼らの苦労を「演出」して、受け手の関心を引いています。そして、こうした積み重ねが人々の意識を形成していきます。

序盤にも少し述べましたが、人々の障害者に対する認識は依然として良いものとは言えません。公然と彼らへの差別を口にする人はさすがに多くはありませんが、インターネット上では本音が出るのか、目を覆いたくなるほどの差別発言が大量に飛び交っており、一部には差別という認識すら欠如しているような書き込みも見られます。例を挙げますと、最近では「ガイジ」(障害児の蔑称)というキャプションの付いた、「アルプスの少女ハイジ」のハイジが「ギエーー」と奇声を上げる、という加工画像が出回っており、人気を集めています。「ガイジ」は間違いなく差別的発言であるのに、多くのネットユーザに「ネタ」として受け入れられているという現状からも目を背けるべきではないでしょう。
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それでも、障害者への一般的な認識は「かわいそうな人」という認識で留まっています。こうした認識が共有されるのも「感動ポルノ」のためであると言えます。もしも「感動ポルノ」がなければ、差別がより深刻になってもおかしくはないでしょう。「演出などしなくても、生の姿を見て貰えばわかってもらえる」というような事を障害者支援をしている方が仰っていますが、残念な事にそれは性善説でしかなく、現状を鑑みるに、そのような事は難しいと言わざるを得ません。

もっとも、「感動ポルノ」自体が、健常者の障害者に対する差別意識が生み出したものです。「健常者が障害者を見下す」という構造なしには「感動ポルノ」は成り立たないのですから。「感動ポルノ」を無くして障害者支援も強化していく、という道が最も望ましいのはいうまでもありませんが、実現にはかなり長い時間がかかるのではないでしょうか。

障害者福祉への意識は高いので……。

悲観的な方面へ話を進めてきましたが、ここで、少しだけ前向きな事に触れておきます。

前述の「寄付白書2013」において「保健・医療・福祉」分野への寄付額が低いのとは裏腹に、内閣府の2013年度 「社会意識に関する世論調査」では、社会の一員として何か社会のために役立ちたいと思っている人に、どの分野で役に立ちたいかという質問に対し、「社会福祉に関する活動(老人や障害者などに対する介護、身の回りの世話、給食、保育など)」と答えた人の割合が37.6%と最も高くなっています。こうしたことから、社会貢献への意識が高い人の間では障害者などへの福祉について関心が高くなっていることがわかります。

現状で「感動ポルノ」を減らしたところではより差別が深刻になるのは容易に予想できることですが、様々な対策によって根本的な意識改革がなされた後には、障害者差別のない未来が待っていることでしょう。その時こそ、障害者の「生の姿」が人々の心に響くようになるのではないでしょうか。

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福井健一郎

福井健一郎【社会・政治】

投稿者の過去記事

政治に関する話題や言論について考察したり、社会において若者ができることを勉強しつつ述べていき、SeiZeeの理念の一つ「世論の向上」を実現し、一人ひとりが政治に関わる社会を目指していきます。

長野県野沢北高等学校3年/小中高生対象のリサーチサービス「ネクスボイス」元最高技術責任者/一般社団法人信州若者会議会員/日本若者協議会会員

Twitter: @fk_mb
Facebook: https://www.facebook.com/fk.onl/

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