【インタビュー】モスクへ、あなたの知らないイスラム教の世界

神戸市中央区三宮、神戸を代表する繁華街である。

JR、阪急電車、阪神電車などが乗り入れ、周辺には百貨店やショッピングセンターが立ち並ぶ。

高架下には多くの小店舗がひしめき合い、まさに雑多な様相を呈している。

町には今なお多くの外国人が生活し、至る所で教会や輸入食品店などを見つけることができる。

そんな神戸の中心部から北へ15分ほど歩いたところに、神戸モスクは存在する。

 


今回はこの神戸モスクで、訪れる人々にイスラム教の説明をしているZulkarnain Hasan Basriさんにお話を伺った。
彼は、神戸モスクにやってきた私たちを流ちょうな日本語と、親しみ深い笑顔で迎え入れてくれ、モスクを入って廊下を直線に行った奥に案内した。
窓からは程よく冷たい風と日が差し込んでくる。

Zulkarnain Hasan Basriさん:40代男性、マレーシア出身

――今回は取材を引き受けて下さってありがとうございます。最初に自己紹介をお願いします。

Zulkarnain Hasan Basriです。マレーシア出身です。

最初に日本を訪れたのは25年前のことで、その時は留学生として愛媛にやってきました。留学が終わるとマレーシアに戻ったのですが、その後も日本にまた行きたいとひそかに思い続けていたんです。すると偶然にも、11年前に勤めている会社から日本に人を派遣することになりまして、上司に胡麻をすって私が日本に派遣されることになりました(笑)。そして今は、マレーシアにいる時に結婚した妻と子供3人と一緒に日本で暮らしています。

――マレーシアに戻ってから、また日本に来たいと思ったのには理由があるんですか?

はい、日本人や日本の物が大好きなので。日本人の皆さんは気づいていないのですが、実は日本ってイスラムと非常に近いんです。イスラムという語は、「ルールに従って生きる」という意味です。日本人はルールをきちんと守って生活しているので、知らぬ間にイスラムを実践していることになります。だから日本は立派なイスラムの国ですよ(笑)。私は日本のそういうところが好きで、もう一度日本に来たいと思っていました。

*****

日本はイスラムの国だと言われてびっくりしてしまった人も多いのではないだろうか。

日本は無宗教の国だと思っている人、「宗教」は生活にほど遠いたいそうなものだと考えている人。

ここから始まるZulkarnainさんの話を聞くとその考えは変わるかもしれない。

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――Zulkarnainさんは生まれてからずっとムスリムですか?

そうですね。生まれてから今までずっとムスリムです。イスラムに疑問を持ったことも全くありません。イスラムには矛盾が存在しないんですよ。例えば会社でお酒を飲みながら仕事をしますか?普通はそんなことしないと思います。社会でしてはいけないことは生活でもしてはいけない。だからイスラムではお酒を飲むことが禁止されているんです。イスラムは宗教と生活が一緒になっていて、そこに矛盾がない。だから考えれば考えるほど理解が深まるし、疑問を持つことはないですね。

――日本で生活するにあたって食事とか色々と問題があるかと思いますが、どのように生活していますか?また、ムスリムとして日本人からの偏見とかは感じますか?

朝起きて礼拝してご飯食べて、普通に生活しています。本当に普通ですよ。食事も困ることはないです。食材はいつも近所のスーパーで買ってきます。スパゲッティとか魚料理が好きで、よく食べていますね。会社の飲み会ではみんな私が豚とかを食べられないことを知っているので、特別なメニューを用意してくれます。それで量が人より多かったりするので、得した気持ちになります(笑)。

こういった感じなので、会社の人にも理解してもらえていると思います。たまに私が礼拝の時間を忘れていて、上司に礼拝しなくてもいいのって言われたり。あと、私が間違ってしまった時は、懺悔しにいきなさいなんて言われることもあります(笑)。皆さんムスリムのことを理解していると思うし、日本人からの偏見とかを感じることもありません。あ、でも日本人は「神」という言葉を多用するので、その時に上司と半分冗談で言い争ったりはしますよね(笑)

――そう言えば、先日流行語大賞に「神ってる」が選ばれたり、日本人は「神」っていう言葉を簡単に使ってしまいがちのような…

そうなんですよ!神を馬鹿にするのはやめてほしい(笑)。野球選手が活躍しても、それは世界のほんの一部での変化にすぎないんです。でも本当の神はもっと大きな世界を動かしています。あと、日本人はどんなものでも神がいるとよく言いますが、いっぱいいたらそれは神ではないです。神は唯一絶対のものなんですよ。だけど、イスラムの教えを知らない人に怒っても仕方ないし、お互いが理解していくことが大事だと思います。

*****

――イスラム教を信じていてよかったことはありますか?

生きていて不安になることがないです。この世で起きることは全てアッラーが決めたことだから。コーランの最初にも出てくるように、アッラーは慈悲深く、私を愛して下さっています。だからアッラーが私に理不尽な仕打ちを下すことはないのです。もし良くないことが起きたとしても、それは現世で苦労したぶん、死んでから天国に行けるチャンスだと思えますから。だから頑張れば何とかなると思うし、私はそこに不安を感じません。

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Zulkarnainさんの話す言葉、そしてその表情には迷いがない。

正直、宗教を信じていない私にとって、生きていて不安がないということは考えられない。しかし、この言葉を聞き、彼の顔を見ると、「神を信じる」ということに宿る言葉以上の力を感じる。

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――イスラムの恋愛観を聞きたいと思います。まずはどんな女性がタイプですか?

綺麗でかわいい人です(笑)。実は預言者は理想の結婚相手に言及しているんです。①見た目の良い人、②血統が良く健康的な子孫を残せる人、③財産のある人、④イスラムの知識のある人。この4つです。見た目の良い人は一番最初に出てくるんですよ。でも、この中で一番幸せになれるのは4つ目、イスラムの知識がある人です。イスラムの知識がある人と結婚すれば、幸せ確実と言われています。

――4つ目以外は、日本人とも変わらないですね(笑)。でも、イスラムは婚前の交際ってダメなんでしたっけ?

付き合うことは大丈夫ですよ。けれど、付き合うことの考え方が日本とは違います。イスラムでは、男女が一緒に遊びに行くとか、これも付き合うに含まれます。でも婚前に体の関係を持つのは絶対にいけません。お互いの体に触れることも許されていません。そういったことは結婚してからです。手を握るのもダメです。

――イスラムでは、夫婦によって役割分担がされていたりするんですか?

それは結婚する時の契約次第です。家庭内での役割は、結婚のときにあらかじめ契約しておきます。だから決まった役割はなく、どんなパターンでもいいんです。意外かもしれませんが、イスラム社会では女性が働いている家庭も多いですよ。日本ではあまりないことですが、奥さんが部長で、旦那さんが平社員なんてことが普通にあります。私が実際そうでしたから(笑)。
でも、家庭内での決定権は確かにお父さんにあります。イスラムは組織のようなものですから、子供はお母さんの言うことに従いますし、お母さんはお父さんの言うことに従います。けれども、社会の中では男女の上下関係はないですね。

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イスラムで女性の社会進出が進んでいるというのはかなり意外だった。

こういったことはイメージで決めつけがちだけど、話を聞いてみないと分からない。

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――次に労働観についてお聞きしたいです。働くってどういうことだと思いますか?

やっぱりお金、生活のために働いていますね。働くことは生きるための道具と考えているので、そこは日本人と少し違うかもしれません。例えば仕事を失ったとしても、それはただ道具を失っただけなんで、人生まで奪われたわけではないのです。今の仕事を失ったとしても、別の仕事はどこかに用意されています。アッラーは慈悲深いので、私たちに必ず収入を与えてくれるんです。

――お金についてはどう考えていますか?

お金は欲しいし、財産を築きたい(笑)。イスラムでは礼拝しながら、ザカート(喜捨)することが求められます。このザカートって他の宗教にはない仕組みなんです。まずザカートをするためには、最低限の稼ぎが必要です。例えば牛なら40頭で1頭のザカートと決められています。牛1頭は大体20万円なので、お金に直すと800万円につき20万円ですね。ですから、ザカートをするには最低800万を稼いでいなければならないんです。つまりイスラムは、ザカートするために800万円を頑張って稼ぎなさいという宗教です。最低限の稼ぎがなければ、ザカートをしてはいけません。貧乏な人は逆にお金を受け取るんです。

――日本人の感覚としては、お金をあげるという行為に抵抗を感じるんですが、そういったものはないですか?

それはないな。「いいことができるチャンス!」って考えます(笑)。もちろん困っている人のためっていうのもありますけど、それ以上に自分が天国に行けるチャンスなんですよ。お金をあげるという行為が自分のためになるから、抵抗がないんですね。

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日本人は仕事=人生と考えている人が多い。

だから仕事がうまくいかなくて精神を病んだり、自殺する人までいる。

そういった人たちには、イスラムの考え方も知ってほしいと思う。

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――死生観についてお聞きします。まず、死後の世界についてどう考えますか?

物っていうのは、形は変わっていきますが、存在自体がなくなることはないです。これは科学的に証明できますよね。人間でも同じことが言えます。イスラムでは、人間が一度作られると、それが死んでも0になるということはありえないと考えます。だから、死後の世界も存在するんです。

――私たちが今生きているのは、死後のためなのでしょうか?

現世は、死後のためのテスト期間です。人間は他の動物と違って、学習することができるんですよ。例えば海の魚…サメにしましょう。千年前のサメと今のサメ、住んでいる場所は一緒ですよね。でも人間は違います。人間は学習して、次の世代に伝えることができます。千年前に住めなかったところでも、今では住めるようになっているんです。こうした学習の能力は、神が人間にだけ与えたものです。そして学習することによって、人間は自由を獲得します。さっきの例だと、人間は学習することで、どこにでも住むことができるのです。この選択の自由が、神が我々をテストしている証拠です。答えはもちろん1つではありません。我々が出した答えによって、死後天国に行くか、地獄に行くかを審判で決められます。この審判の結果は全て自分の責任です。地獄に落ちたならば、それは現世での行いがいけなかったから。我々の選んだ生き方の結果なので、そこに不満はないんです。

――じゃあ、もし私たちが失敗してしまった時、それは取り返しがつかないのですか?

そんなことはありません。その後に良いことをしたり、懺悔することで0に戻るんです。コーランの最初にあるように、アッラーは慈悲深く愛に溢れた存在です。そんな愛に溢れた方が人を許せないと思いますか?もし大好きな彼女が悪いことをしても、「ごめん!」って謝られたら許してしまうでしょ?アッラーは必ず私たちのことを許してくれるんです。だから私たちはアッラーに感謝しなければなりません。コーランの2番目に出てくる言葉は「ありがとう」です。

――失敗に関連してなんですが、イスラムでの司法制度について教えてください。

さっきの話は、あくまで人対神での話です。だから神は何でも許してくれます。でも、人対人での話になるとルールは変わってきます。例えば人を殺してしまった場合。人対人、つまり加害者と被害者の家族の問題です。この場合は裁判で解決することになります。裁判の過程は、判決を下すところまでは日本と変わりません。しかし、判決を下す人が日本と違います。誰が判決を下すと思いますか?実は被害者の家族なんです。裁判長は証拠が正しいかの判断ができるのみで、判決を下す権限がありません。そして被害者の家族は、加害者への罰を①死刑②被害者が生きていたら得られた収入分のお金③自由の3つから選択することができます。関係のない裁判長が判決を下すのに比べて、被害者の家族は納得なんです。

――先ほど、アッラーはすべてお見通しだとおっしゃいましたよね。戦争についてはどう思われますか?戦争も神が望んでおられることなんでしょうか。

神が望んでいるというより、神は基本的に私たちの意思を尊重してくれます。だから、戦争をしたいと考える人がいると、戦争は起きてしまいます。しかしどの宗教でもそうですが、イスラムでは人殺しは絶対にしてはいけない行為です。ですから戦争を起こす人は、死後に必ず地獄に落ちます。イスラムは他者のために良い行いをする宗教なんで、殺すための戦争は当然いけません。ただ、皆の安全を守るための場合のみ、戦争をすることが許されます。日本の自衛隊とよく似たイメージですね。やっぱり日本とイスラムは似ている(笑)。

*****

Zulkarnainさんの話を聞いて、現世と来世についてしっかりとした考えを持ち、そして自分が今何をするべきなのかを理解しているように感じた。

普段の行動一つ一つにも根拠があるのだろう。

こういった生き方に対する自信を、私も求めているのかもしれない。

*****

――最後になりますが、Zulkarnainさんにとって幸せってなんですか?

幸せかあ。幸せってなんでしょうね。でも間違いなく言えることは、私は今幸せだし。不幸なんて全くないです。だって神に愛されているから、頑張ればなんでもできるんですよ。例えば今足が痛いけど、これを我慢すれば天国に行くことができる。痛みは神からのプレゼントです。そういう風に考えているから、不幸がないんです。どんなことであっても、ポジティブに捉えることができる。だから全部幸せです。

*****

Zulkarnainさんの笑顔を見ると、彼は本当に全てのことを幸せだと思っているのが伝わってくる。

私は思わずそういった生き方に感動してしまった。

世界中の人が、何事もプラスに考えられるようになったら、どんな素敵な世界になるのかな。

インタビュー後、ムスリム体験会に参加し、マレーシアの家庭料理をご馳走になった。

 

*****

あなたはイスラム教についてどんなイメージを持っているだろうか?

古い調査であるが、2003年に高校生を対象にしたイスラムの意識調査では、「厳格で戒律が多く不自由」「得体が知れず理解しがたい」「不寛容で攻撃的」「ヒゲをはやした沙漠の民」というイメージを持っており、同じく2004年に大学生を対象にした調査では、「闘争」「テロの宗教」「怖い宗教」というイメージを持っていることが判明した。(参照元)

10年以上も前の調査であるが、おそらく世間の認識は今もさほど変わっていないだろう。

じゃあ、このインタビューを読み終えたあなたに問いたい。

果たしてこのイメージは正しいのだろうか?

私たちは無知のものに対して勝手なイメージを持ちやすい。

もちろん判断材料が乏しく、マスメディアの提供する情報のみを鵜呑みにしてしまうこともある。

けれども、判断材料って探してみたら意外にも近くにあるのかもしれない。

今回のイスラム教もそうだ。

三宮から15分も歩けば、ムスリムの集まるモスクがある。

そこにいる人に話を聞いてみる。きっとイスラム教に対するイメージは変わるに違いない。

*****

周りを見渡してみると。たくさんの人がいる。その風景の一部である「大衆」は一人一人の人間の集まりだ。関係ないように思える人それぞれに、幸せがあり、悩みがある。

普段私たちは、そんなこと気にも留めない。でも、それを知らないままってとても勿体ないことだと思う。

だって知れば面白いから。

色んな人の価値観に触れるたび、世界は広がる。

社会に目を向ける、なんて大それたことじゃなくていい。その隣にいる人に思いを馳せてみる。ただそれだけで、社会はグッと近くなる。

社会にあふれる問題を、他人事にしないために。その想像力が、誰かを救うかもしれない。

このインタビューが、あなたと社会をつなぐきっかけになれば幸いです。

最後になりますが、インタビューに協力していただいたZulkarnain Hasan Basriさん、本当にありがとうございました!

※このインタビューはあくまで個人の意見であり、イスラム教徒の総意ではありません。

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当メディア『SeiZee』の編集部です。
「読んだらちょっと、考えちゃう」をテーマに記事発信しています。

昨年末から、モスク、競馬場などへのインタビューに力を入れています。

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